作家志望の高校生

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夕暮れ時の屋上。ふたりぶんの影が伸びて、誰もいない床の一部に黒い染みを零していた。子どもの頃通った秘密基地への抜け穴のようなフェンスの隙間を通って、僕らは人工的な崖っぷちに立った。

昔はこんなのじゃなかったのに。今日もまた溢れて止まらない、真っ黒に澱んだ汚い自分が嫌になる。アイツだって、変わりたくて変わったんじゃないのに。
昔は、明るくて社交的な奴だった。勉強こそできなかったけど、優しくて、勇気があって。だから、あんなことになってしまった。いじめの現場を見たアイツは、正義感が許せなかったらしい。止めに入って、代わりに殴られて、帰って来る頃にはボロボロだった。
それから、いじめのターゲットは完全にアイツになった。アイツと違って、弱虫で利己的な俺はアイツを助けられなかった。日に日にやつれて表情を失っていくアイツを、見ていることしかできなかった。
中学2年生になって、アイツは学校に来なくなった。ずっと引きこもりがちで、外で顔を見かける回数も減った。だから、俺はせめてもの償いとして、アイツを救おうと思った。遅すぎると怒鳴られても仕方ないと覚悟して、アイツの家のインターホンを押したのが今から4年前だ。
アイツは俺に怒鳴らなかった。へらりと力無く笑って、全てを諦めたような目で俺を受け入れた。それが逆に何より辛くて、何もできなかった俺への天罰のように感じた。なんとか説得してアイツを同じ高校に入れて、不定期ではあるが一緒に登校した。ニコイチにされるくらいべったりくっついて、お節介なくらい世話を焼いた。
けれど、病んだ奴の世話をする側も危ういことを俺は知らなかった。何もやる気が出ないという人間を、なんとか励まして、けれどそれも無視されて。段々と、俺の心も擦り減っていった。
高校2年の秋。俺はもう限界だった。あの時アイツを見捨てた俺が、そして俺の人生をめちゃくちゃにしたアイツが憎くて、けれどどうしても傍にいたくて。矛盾した思いと一向に進展しないアイツの心の整理に、俺の中で何かが壊れた。
ある日、いつも通り布団に包まって動けなくなったアイツを抱きしめながら呟く。
「もう、楽になっちゃおうか。」
翌日。放課後に屋上へ上がった俺達は今までで一番綺麗な夕日を見た。屋上の縁に立ち、いざ飛び出そうといったその時。アイツが、躊躇った。どうやら俺の努力は完全に無駄になったわけでもなかったらしい。
でも、もう俺の方が壊れきっていた。躊躇ったアイツの腕を掴んで、そのまま飛び降りる。目を見開いたアイツを空中で抱きしめて、そのまま俺達は鈍く夕日を反射する血溜まりの中転がる肉塊になった。

テーマ:僕と一緒に

9/24/2025, 6:53:36 AM