キクツキ

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「君のことは今でも好きだよ。でも、別れてほしい」
ーごめんー
そう言って頭を下げる彼を、私はぼんやりと見つめていた。
昨日まで普通だったのに。一緒に出掛けて、ふらっと入った喫茶店の料理が美味しくて。
送って貰って、別れ際のキス…何も変わらない、いつも通りのはずだったのに。
思考が纏まらない。どうしたら良いのかも分からない。
震える唇から、やっとのことで紡いだ言葉は
驚くほど静かだった。
「…どうして」
ぴくり。彼の肩が震える。
ゆっくりと身体を起こし、私を真っ直ぐに見つめる瞳には
苦悩の色が浮かんでいた
「…出来るなら、君とこのまま…恋人のままで居たい。でも、無理なんだ」
深く、息を吐く。永遠にも感じるような一呼吸…彼は、苦しそうに言葉を紡ぐ。
「昨日、母に聞いた。君が…俺の妹だって。産まれてすぐに父親が居なくなって、母一人では育てられないから…親友の養女にして貰ったって」

…こんなに好きなのに。愛しているのに。
手を伸ばせば、触れられるのに。
何を言っても、何をしても…彼を苦しめるだけ。
頬を熱いものが伝う。いつもなら拭ってくれる指先も、今日は震えているだけだ。

「…わかった」
絞り出した私の声も、震えていた。
「今まで、ありがとう。愛してくれて、ありがとう」
ー幸せでしたー
精一杯の笑顔は、上手く笑えて居なかったかも知れない。それでも、これ以上顔を合わせていれば…欲が出てしまう。
「…さよなら。幸せに、なって」
踵を返し、一歩。彼は動かない。
距離にして2m。私の背中を彼の言葉が追ってきた。
「…愛していた、よ。どうか、幸せになって」


振り返ることは出来なかった。
この胸の痛みは…いつか時間が癒してくれるのだろうか

11/22/2024, 8:15:10 AM