残り僅かなひととき(テーマ 遠くの街へ)
小さな部屋の中で、椅子に座ってタバコをふかす。
他に誰もいない部屋だ。
(どこか遠くへ行きたい。)
誰も私のことを知らない街へ。
大きな失敗をした私のことを、誰も知らず、誰も責めないだろうから。
そこで私は、公園のベンチに腰掛けて缶コーヒーを飲みながら、街行く人をのんびり眺めるのだ。
遠くの街では、私が知らないこと、知らない場所だらけだ。
私はゆったりと街並みを眺めながら歩き、珍しい店などあれば冷やかして歩くだろう。
小さくとも落ち着ける住居を手に入れ、気分によっては家から出なくてもいいし、出てもいい。
部屋に騒がしい音が近づいてくる。
「もう逃げられないぞ。」
そう言って突入してきた警官隊に取り押さえられ、私のささやかな想像は終わった。
これからの私は、留置所、裁判所、刑務所のフルコースだ。
のんびりはできないだろう。
街歩きもできないだろう。
そう。
どこか遠くの街、なんて言い出すのは、追い詰められた者ばかり。
遠く街になんて、行けない者ばかり。
しかし、一方で、これでいいと思いもするのだ。
ささやかな幸せについても、得るべき者と得るべきでない者がいる。
(これでもう逃げなくて済む。)
少しだけ安心し、大人しくパトカーに乗った。
2/29/2024, 4:39:31 AM