雨降る吉原。三浦屋の張見世には、着物の裾を露で濡らす艶めかしい遊女達が、街行く殿方を待つ。
店の2階からは、雨粒の後ろに隠れながら、男女の時を過ごす声音があちらこちらで聞こえる。
店奥に一人佇む麗しい花魁。
揚巻太夫は、部屋の格子窓から外を覗いた。
遊郭の明かりに照らされ、雨雲は赤く染まった。
「あの人の目そっくり」
揚巻は、愛しの助六を想った。
彼のその、赤く沸る火を灯した目に揚巻は惚れたのだ。
「遅いねぇ…。…助六さん…」
今日もまた、店前には陰見世の札が掛かっている。
助六が買ったのだ。今宵の彼女を、
待ちくたびれた揚巻は、ゆっくりと床に伏せてみた。
少しして、階段の軋む音がした。
店の人じゃない。強い足音。雑踏の中でも一際聞こえた。
襖が開いて人の影が鮮明に見えた。
そこにいたのは、全身ずぶ濡れの助六であった、
「待ちくたびれたでありんす…」
水も滴る良い男とはこの男の事を言うのだろう。
顔も着物もじっとり濡れていた。
普段は傘を差してくるのに。
喧嘩の帰りだろうか。
傷ひとつない顔、されどくたびれた様子なのはすぐに見て分かる。
「すまないね」
助六の目は、まだ赤い火が燻って見えた。
「手拭いを」
「ありがとう」
「今日はどちらへ?」
「東門に輩が固まってたんで、懲らしめてきた」
「そうでありんすか…」
助六は着物を一枚格子窓に掛けると、揚巻の前に座った。
「お前の眼は綺麗だ。見つめていると、さっきまでの熱が冷めて疲れも癒えていくようだ」
「それなら、わっちも」
刹那、揚巻は助六の胸ぐらを掴んで引き寄せた。
「助六さんのその眼…。喧嘩の時の赤く沸る目も、輩を煽る時の幼い目も、私を見据えてくれる男らしい目も…全部好きだわえ」
「いつにも増して強気だな」
「遅れて来た罰でありんす。覚悟はよろしいか?」
「望むところだ」
雨降る吉原、三浦屋の店奥では、ずぶ濡れの色男と殿方の海に溺れる花魁の物語が始まった。
…
めっちゃミスった。
4/7/2026, 6:57:11 AM