【一件のLINE】
姉貴からのLINEで、俺は叩き起こされた。
「愚弟ぃいい! 私の愚痴を聞けぇええ!」
「電話かよ」
深夜二時。
いきなりの出来事に、目がしばしばした。
半分寝そうな脳みそを起こしながら、やっとベッドから上半身を起こす。
歳の離れた姉貴には、健全な高校生の貴重な睡眠をご理解できてないらしい。
「と言うか、時間……」
「彼氏に振られた私を慰めろぉおおお!」
「あ、はい」
これ、酔っ払ってるな。
どうやら居酒屋にいる。通話の向こうから、ビールの追加注文の声がした。
姉貴は酒癖の悪さを理由に、よく彼氏に振られていた。
酔っ払うたびに、からみ酒。
慣れてる俺と違い、彼氏さんには大変なのだろう。
もちろん、姉貴にも良いところはある。
豪快なとこ。努力家なこと。後輩の悩みに親身になってくれるところ。
あとはーー
「愚痴聞き料、時給一万円!!」
「喜んで!」
そーゆー所も、大好き。
俺は姉貴の愚痴に付き合うことにした。
なるべく聞き手に回り、こまめに相槌を打つ。
時折褒めたり、宥めだり。
昔、俺が挫けた時に、姉貴がそうしてくれた様に。できる限り親身に耳を傾けた。
「本当にねー、良い男なんだよ。頭はいいし、お金あるし、顔も広くて大人だしー……」
姉貴の愚痴は、いつも似た様な終わり方をする。
ーー頑張る私を、誰かに愛して欲しかったのよ。
大人って、みんなこうなのかな?
がむしゃらに努力して、褒めてもらえなくて、人が恋しくなる感じ。
高校生の俺にも少しわかる気がして、うん、って姉貴に寄り添った。
「彼氏とよりを戻せるといいね」
「うん、サンキュー。……愚弟なんて言ってごめんね」
電話を切る頃には、空が少し明るさを取り戻していた。
二度寝のために、横になろうとして止める。
俺も、いつか大人になれるんだろうか。
背伸びをしたいのに寂しくなる感覚に、少しだけ、考えてしまった。
7/11/2023, 11:26:53 PM