【 安らかな瞳 】
あの日、彼女は光を失った。
夫の裏切りで友人とやらに弄ばれたと、
消え入りそうな声で掛けてきた電話。
心を乱されて、視界は暗闇に覆われて、体も衰弱して、
駆けつけた時にはもう遅かった。
入院した彼女は、漆黒の世界に何を見ているのか。
悪夢に苛まれ、体を震わせ、一人で恐怖に耐えるばかり。
僕がしてやれることは、ただ一つ。
ひっそりと、奴らを葬ることだけだ。
時間はかかったが、なんとかやり遂げ、彼女に知らせる。
一瞬、化け物を見たかのような表情をされたが、
状況を理解したのだろう。
優しい微笑みを僕にくれた。
ありがとう―――
その言葉を発した彼女の眼は、安堵に満ちていた。
3/15/2024, 4:13:13 AM