[ある小学校の図書室]
おい片桐。もう5時になるから、あとは家で読めよ。貸出票出しな。
図書委員の須藤が、西陽が差す窓側で読みふける少年を呼ぶ。
片桐は閉館までいつも待ってくれる彼の優しさに感謝していた。
図書室を出ると、隣の備品室の引戸が少し開いていることに気づき…思わず須藤が覗き込む。"開かずの間"で有名だからだ。
中で後ろ姿の誰かがしゃがんでいたが、
「須藤?」片桐の呼び声に振り向く。
「あ、しまった…鍵を…」
校長先生だった。そして戸を開け二人を凝視する。何か見てはならないものを見たようだ。
[40年後。同小学校]
片桐は、この小学校の校長に赴任してきた。彼は自分がこの運命の場所に戻ってきたことは偶然ではないと感じた。
校長室からあの図書室と備品室は近い場所に。校舎はリフォームはされていたが、当時とほぼ変わらない。
あの開かずの戸の前に立つと、後ろから教職員が
「校長、お電話です。須藤様という方から」
校長室で受話器を取る
「久しぶりだな。校長着任おめでとう」
「最後に会ったのは、お互い大学に進学した後の同窓会…以来か?」
懐かしさで話が弾むと同時に、この場所に来て彼からの連絡。やはり偶然ではないと直感した。
「片桐。再会も兼ねて飲まないか?そして、あの時の話もしたい…この学校の秘密について」
須藤は私がここに着任することを知っていた?あの開かずの間についての話なら望むところだ。
1/27/2023, 1:30:46 PM