なのか

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フリをしてると終わってしまうものって、なーんだ。
それは英語の授業中だった。関係代名詞を選別する単調な問題をこなしていると、隣から一枚の付箋紙が視界に侵入してきた。ちらと視線を送ると、逢坂さんは真剣に問題に取り組むポーズを取っていた。あまりこういうことをするタイプだとは思っていなかったので、少し驚いた。
付箋紙を教師の目から届かないところに貼り直して、問題を考えてみる。
フリをするでまず連想したのは、出題者の彼女だった。今まさに問題を解くフリをしている。それで何かが終わるわけではないだろうから、関係はないだろうけれど。次に出てきたのは、ラブコメによくある恋人のフリをする展開だった。これについては、ここから恋がむしろ始まるのだし、そもそも関連性は低いだろう。
気がつくと関係代名詞のプリントは半分くらい終了している。
あまり良いひらめきを得られずにいると、見かねたのか隣から追加の付箋紙が来た。答えは出た? と可愛らしいうさぎ付きで書かれている。余白部分に、もう少し待って。とシャーペンで書いてから隣へ返す。自分の字と比べると、逢坂さんのそれは丸くて柔らかい印象を受けた。
プリントと同時進行ではどっちつかずでむず痒かったので、先にプリントを終わらせることにした。先行詞が人以外のときはほとんどの場合whichを使用するので有難い。問題は先行詞が人の場合だ。whoかthatを使うわけだけれど、どちらを使えばいいのかいまいちはっきりしない。
そこまで考えたところで、先行詞を見てひらめいた。一度意識を切るとやってくるのが、ひらめきの何ともツンデレなところだ。
プリントの下に隠していた付箋紙の余白に、友達。と書き足してから隣へとそれとなく渡した。キャップ付きのペン特有の間抜けな音が隣から鳴って、耳に引っかかる摩擦音が続けてした。返却(あるいは贈与)された付箋紙には、goodとエクスクラメーション三つが書かれていて、大きな丸がつけられていた。
一仕事終わった気分で一つ息をつくと、机の方にまた付箋紙が貼られた。
次はそっちの番ね。楽しみにしてる。
新たに追加された付箋紙には、丸くて柔らかい字でそう書かれていた。実はもう考えついていた。ひらめきはツンデレなのだ。
息を吹くと膨らむ英単語って、なーんだ。
問題を書いてから、彼女の机に貼り直す。思っていたより早かったのだろう、この授業中で初めて目が合った。考えてみれば彼女が何者なのかよく知らないんだなと、その瞳を見たとき、ふと思った。

10/25/2024, 9:28:30 PM