白井墓守

Open App

『子供のままで』

子供のままで、大人になってしまった。
……つまり、永遠に成長できる、ということである。

○○○

「笑っている子供を見ると、気分が良いだろ? それだよ」
「……いや、子供扱いしないでくれよ。立派な大人だぜ」

俺がむすくれて、頬を膨らまして不本意を顕にしていると、目の前の男は笑った。春の木漏れ日のような温かい微笑を。

「そんなに悪いことじゃない」
「何が? 大人になっても子供扱いなんて、下に見られている証拠だと思うけど」

俺がそう言うと、目の前のヤツは無言で肩を竦める。
そして、どこか遠い目をしながら、こう言った。

「大人になる、ということは……自分の限界が見えてくる、という事でもある。だけど、君は違う。どこまでも、どこまでも……もっともっと先へ行ける。これは褒め言葉だよ」

「…………なぁ、本当に、本当に仕事を辞めるのか。お前、この仕事を気に入って居たじゃないか」
「限界が、見えてしまったから。ごめんね」
「絶対に許さない」

俺の言葉に、やはり彼は温かな陽だまりのような笑みを浮かべて返す。
俺は抱えていた重い重い小ぶりの花束を、手渡した。

「ありがとう」
「……次の職場でも、元気でやれよ」
「もちろん」

遠くなっていく背中が、どこか蜃気楼のように揺らめいていて。
ふっと消えてしまいそうな危うさが、どこか胸を掻き立てた。

○○○

子供のまま、大人になってしまった。
別れはいつも、馴れなくて辛い。

「せめて、アイツが笑って次の仕事を出来ますように」


おわり

5/12/2026, 7:48:53 PM