(※長い割にオチがありません)
「……どうして、私なんかを助けたんですか!?」
夕日に真っ赤に照らされた屋上で、私は、私よりずっと背の高いそのひとの顔を、睨め付けるように見上げた。
あと少しだった。
あともう少しで、この世界とお別れできるはずだったのに。
非難めいた問いをぶつける私に、彼は柔らかい声で答えた。
「……さあ、どうしてだろうね」
「え」
なんだそれは。私は愕然とした。
私の、たったひとつの地獄からの逃げ道を塞いでおいて。それは、あまりにも、あまりにも無責任ではないか。
「実はね、今、僕も自分でびっくりしてるんだ」
「?」
「僕も昔、君と同じことをしようとして、同じように止められたんだ。
それで、止めてくれた人に『どうして余計なことをしたのか』って、そりゃあもう、すごい剣幕で詰め寄った」
「……それで、なんて返ってきたんですか」
「……同じだよ。
『どうしてだろうねぇ』ってさ」
呆然として言葉も出ない私を見て、目の前の見知らぬ大人は少し苦笑いをして頭を掻いた。
「本当に、どうしてだろう。
ねぇ君、もし。もしよかったらなんだけど」
「なんですか」
「もしも。君が『助ける側』の立場に立ったなら、この『どうして』に答えてあげてくれないか?」
本当に、本当に無責任だ。
私は思わずその人の左頬を引っ叩いた。
そんな日が、もしも来るのなら。
『どうして』
1/14/2024, 11:49:10 AM