十目 一八

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お題『忘れられない、いつまでも。』

まだ私が小さかったころ。

夏休みに遊びに行った
おじいちゃんのお家で
どこからか祭囃子が聞こえてきた。

「お祭りだ!」

妹と顔を見合わせて
私たちはこっそりお家を抜け出して
音のする方へ駆け出した。

でも――
近くに聞こえていたはずのお囃子は
追いかけても追いかけても遠くて
気づけば
知らない道ばかりになっていた。

空はだんだんオレンジ色になって
セミの声がやけに大きくて
妹はとうとう
ぽろぽろ泣き出してしまった。

「だ、大丈夫だよ」
私はお姉ちゃんだから
精一杯そう言ったけど
本当は
私も泣きそうだった。

ぎゅっと妹の手を握っていたら
遠くから
「おーい!」って声がした。

振り向くと
汗をかきながら走ってくる
おじいちゃんの姿。

「見つけた!」

おじいちゃんは
私たちの前でしゃがむと
くしゃくしゃの優しい顔で笑って
「もう大丈夫」って
頭を撫でてくれた。

その瞬間、安心して
私はわんわん泣いてしまった。

お家へ帰ると
おばあちゃんが玄関で待っていた。

いつもは厳しいおばあちゃんが
その日は何も怒らず
「心配したんだからねぇ」
って言いながら
ぎゅーっと抱きしめてくれた。

私たちは何度も
「ごめんなさい」って謝ったけど
おじいちゃんもおばあちゃんも
「無事でよかった」って
何度も言ってくれた。

次の日。

おじいちゃんとおばあちゃんは
本当にお祭りへ連れて行ってくれた。

神社には
たくさんの提灯。

ゆらゆら揺れる灯りが
まるで魔法みたいで

子どもの私は
「ここは不思議の世界の入り口なんだ!」
って本気で思った。

今でも
遠くで祭囃子が聞こえると
あの神社へ
走って行けそうな気がする。

だから私は
祭囃子が大好き。

あの夏の迷子も
優しい手のぬくもりも
忘れられない、いつまでも。

5/9/2026, 2:48:47 PM