No.20『翼』
散文 / 掌編小説
たまにしか会えない母親が最後にわたしに会いに来たのは、わたしに初潮が来た時のことだった。学校で初潮を迎えたわたしは保健室に駆け込み、保健の先生に事情を話した。おめでとうと言われたあの時の、先生の笑顔を忘れられない。もう子供ではいられないのだと、痛感した瞬間だったから。
わたしの両親はわたしが生まれた頃には離婚してしまっていたが、それが母親の浮気のせいだと知ったのはつい最近のことだ。
「……誰もあんたの恋人なんか取らないっつの」
最後に母親に会ったあの日。母親は、もうあんたも女なのねと意味ありげに笑っていたが、苦虫を噛み潰したようなあの笑顔の意味はそういうことだったのだ。毎回違っていた母親の恋人だと言う男から向けられる気味悪い笑顔は、初潮を迎える頃にはあからさまに性的なものが混じっていた。
大空を羽ばたけるような子になるようにと、子供の頃から男女どちらが生まれても翼と名付けるつもりだった母親は、自由奔放すぎて家庭におさまりきれなかった。
自由に羽ばたける翼を持っているのは彼女のほうだ。わたしは母親に捨てられた可哀想な父親が見捨てられず、ここから動けずにいる。
お題:大空
12/22/2022, 8:56:44 AM