美佐野

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(二次創作)(君と出逢って)

 幼い頃から医学、特に薬学に興味があった私は、まるで決められたレールを進むが如く医者になり、ウェスタウンに医院を開いた。幸いにも私を頼る患者は多く、医者として、的確な判断と医療行為、アドバイスを続けてきたつもりだ。合間に薬学の研究をしつつ、私の人生は十分に充実していたのだ。大きな不満もなく、大それた目標もなく、ただ静かに知識と経験の積み重なる日々を送っていた。
 そこに、君が現れたのだ。
 失礼ながら、はじめ、うら若い女性が一人であんな広大な荒れ地で牧場を経営するなど到底無理だと考えていた。だからこそ、君が怪我をすれば心配だったし、医者として出来る限りのサポートはしてきたつもりだ。
 まさか君が私を異性という意味で好きになるとは思っていなかった。
 私は恋愛には全く興味がなかったが、君のことは前々から気にしていた。君が望むなら、と私は君の求婚を受けたわけだが、今では、君と出会ったことで人生が変わったと思っている。君との間に生まれた息子は可愛いし、誰かと共に一生を歩むのは、存外悪くなかった。
 ただ一つ、デメリットがあるとすれば――別個の人間が人生を共にしたとして、高確率でどちらかは遺されてしまうということだ。あんなに元気で、怪我は頻繁だが病気一つしない君が、私より先に逝くとは思わなかった。君、まだ孫の顔だって見ていないではないか。
 君がいなくなってからの暮らしは、随分と静かだ。だが、思うに、遺していく方でなかったのは、不幸中の幸いだったかもしれない。もし私が先に逝ってしまえば、君は私以上に私の不在を悲しむだろう。
 さて、君がいなくなってから今日でちょうど一年だ。君が楽しみにしていた初孫は、どこか君の面影を残した女の子だった。息子も、奥さんとうまくやっているようだ。彼らのこれからを見守りながら、私はいつか君と再会できる時を待つとしよう。
「また来るよ。……ナナミ」

5/7/2024, 10:09:54 AM