桔花

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・やわらかな光
とても、とても、寒かった。氷の粒を纏った風が、うなりをあげて渦巻いていた。あたりは灰色で、何も、見えなかった。

「早く、ここを出ていってよ。寒くて仕方ないわ」

暖を求めて縮こまっていたとき、不意に誰かの声がした。

「ぼくに言ってるの?」
「そうよ。あなた以外にいないでしょ。…ちょっと!急に動かないでよね。凍死しちゃう」

なるほど。この寒さは、ぼくのせいなのか。
それは、なぜかどうしようもなく悲しくて、ぼくは少し泣いた。

「泣かないでよ。寒いじゃない。聞いてるの?ねえ、いい加減…」

それは突然だった。足場がなくなって、目の前がパッと明るくなる。
奇妙なほどに、青。
風の唸りが聞こえなくなって、誰かが息を呑む音がした。
ぼくは落ちていた。何度か、あの寒い灰色にぶつかったけれど、止まることはなかった。

「やあ。君も今日なんだね。一緒に行こうよ」

気がつけばぼくの周りは、奇妙な仲間でいっぱいだった。
真っ直ぐに落下していたはずのぼくは、白いもふもふを纏って、いつしかゆっくり、舞い降りていく。
白い、白い、地面が見えた。先に行った仲間たちだと、すぐにわかった。
きらり。きらり。
ぼくらは氷の粒に過ぎない。
どこまでも冷たく、硬い。
なのに、どうしてだろう。
白い地面に反射した光は、どこまでもあたたかく、やわらかかった。

10/17/2023, 9:14:44 AM