17 星のかけら
魔女の塔で眠る白き乙女。
白い額と薔薇色の頬を縁取る艶やかな金色の髪。髪と同じ金色の睫毛は長くて美しい。
瓦礫の山のように積み上げられた分厚い魔導書たちに囲まれるようにして中央の寝台に横たわる乙女はすやすやと寝息をたてている。
「こんなに散らかして……」
あたりを見渡して溜息を一つこぼす声は、声変りする前の少年のような甘く優しい声。だが冷静な口調はどこか大人びていて少年の声とは差異を感じる。妙な色気を感じるのだ。
「師匠、何時だと思ってるんですか。いい加減に起きてください。お夕食、持ってきましたよ」
そう声をかける少年の手には盆に乗せられたバゲットと鴨のパテ、子ヤギのシチューが美味しそうに湯気を
たてていた。
微動だにしない師匠と呼ばれた乙女に若干の苛立ちを隠せない少年。
「……ふう」
そこら辺にある山積みになった分厚い本の上に盆を置き、乙女の眠る寝台に腰掛けた。
少年の細い指が乙女の薔薇色の頬をそっと優しく撫でる。そのまま下へと移動し顎をくいっと持ちあげて唇に触れ。
ふっくらとした赤いリンゴの唇を愛おしそうに親指で何度もなぞる。
「…………」
少年らしさは影を潜め、そこには剣呑な眼差しを向けた一人の男が。
「なんて、無防備でしょう」
小さく呟くと男は乙女に強く唇を押し付けた。
頭を手で押さえ、もう片方の手は体を押し付けるようにして、乙女の上に跨がった。
「……ん、んんーーっ」
息ができない!と乙女は目を覚ましたと同時に、この状況を理解したらしく顔を逸らそうとするが、それを許さず、がっちり頭を押さえつけられる。男の力に抗うことができず、拘束された体も息も苦しい。思わず口で呼吸を整えようとすれば、それを待ち望んでたかのように舌を入れ絡ませてくる。
お互いの唾液が混ざりあい、水気を帯びたいやらしい音と甘い吐息だけが部屋に響く。
「師匠、勃ってしまいました。責任取ってくだ……」
ゴン!と男の頭頂部から鈍い音がした。どうやら乙女に思いっきり拳で殴られたようだ。
「痛っ!」
「痛っ! じゃないよ。この盛りザルが。師匠を襲うなんて一万光年早いね」
ゴン!ゴン!と追加で鉄槌を落とされて少年の頭はたんこぶが三つ。
「……楽しんでたくせに」
ぽそりと少年が呟けば、
「なんか言ったか?」
じろりと師匠に鋭く睨まれれば。
何事もなかったようににっこり微笑む少年。
「……お夕食冷めちゃいましたね、温めなおしてきます」
これは何個かあるうちの一つのお話(かけら)。
まだまだ続きそう……?
1/9/2025, 4:23:27 PM