『形の無いもの』
秋空が高く広がる下を我が家の犬が元気に歩く。暑くて長い夏がようやく過ぎてくれたので火傷しそうなぐらいに熱々のアスファルトや体力を奪いにくる直射日光に煩わされることなく、のんびり悠々と歩けることにありがたみすら感じてしまう。
あたりの匂いを思うさまに嗅いで情報収集に忙しくしていた犬は地面から中空へと鼻先を向けた。空の高いところには冷たい風が吹いていて、入道雲ばかりだった空には巻雲が細く散らばっている。もしかすると犬には秋の匂いが確かにわかっているのかもしれない。
などと思っていると、道の向こうから仲良しの犬が歩いてくるのが見えてきた。夏場はあまり遭遇していなかっただけに犬の喜びはひとしおだ。ぶんぶんとしっぽを振りリードをグイグイと引っ張る犬に慌ててついていく途中、鼻先を掠めた秋の匂いに少しだけ振り返った。
9/25/2024, 3:39:38 AM