光輝け、暗闇で
夜空にちらちらと瞬く星々を見ていた。山の端が黒く縁取られて、星空だけが絵画のように鮮やかだった。山の澄んだ空気に、街中では見えない細かな星もはっきりとしている。君は隣で望遠鏡を覗き込んでいた。
週末。地元で有名な、星の綺麗な高原に来ていた。私を誘った彼は自前の本格的な望遠鏡を担いできたので驚いた。彼は星が好きなのだ。
「綺麗だね」
もう何度言ったかわからない言葉を口にのせた。彼はうんざりすることもなく、うんと頷いてくれる。何気ない言葉に同意してくれる人がいるというのは、心地いいものなのだ。日付が変わって少し経った頃、ここに着いて、もう数時間経っただろうか。流れ星は、後半夜に見やすいと聞いて来たのに、残念ながらまだ一つもお目にかかれてはいない。
「あれは、さそり座」
星座に疎い私に、彼は空を手でなぞりながら教えてくれた。名も無い星の集まりだった空に、段々と星座が頭のなかに描かれて形取られていくのが、不思議だった。そして、彼の語り口が、本当に楽しそうなのだ。黒の深い彼の瞳に、星空が浮かんでいるようにも見えた。
その瞳の黒が溶け込んだような空の端が、だんだんと白々と霞んでくる。あんなに煌めいていた星々はあっという間に色を失って、その影は深まっていく。登ってくる朝日が恨めしかった。
「今だけは、朝が来なければいいのに」
「うん、そうかもね」
彼の反応が薄かったのに視線を向けると、彼の目は薄れゆく星に細められていた。
「星は、消える訳じゃない。暗闇だからこそ、星は綺麗なんだ。昼でも、光り続ける。ただ、僕らの目には見えないだけで」
そうか、と私は頷いた。手を伸ばしてまだ明るい一等星をそっとなぞった。
夜が明ける。朝焼けが、薄れゆく星を指した手を茜色に染めた。
5/16/2025, 8:30:12 AM