性欲。
それが第一だった。
水たまりみたいに浅くて、踏めばすぐに濁るようなもの。でもそれだけじゃ長くは持たないことも、どこかでわかっていた。
最初のメッセージは、わざと下品にした。
軽い女ならすぐ乗ってくるし、まともなら離れていく。
試していたのは、彼女じゃなくて、俺自身かもしれない。
けど、引かれなかった。
むしろ、跳ね返すように強く出てきた。
「気の強い女か」と思ったけど、それが逆にどこか気になった。
だから言った。
「俺のこと、知ってから去って」
やりとりの中で彼女の経験が浅いのはすぐにわかった。
だからこそ誘った。すぐに、週末に。
目的は身体だった。
それだけのはずだった。
だけど、会う前に色々聞いたのは、なぜだろう。
俺の言葉の奥を覗こうとする彼女に、鏡みたいなものを感じたのかもしれない。
「やっぱり明日、会えない?」
それは迷いじゃなく、問いだった。
相手がどこまで踏み込むのか、確かめたかった。
予想外に、彼女は来た。
その瞬間、俺の中で何かが少しだけ静かに揺れた。
車を走らせながら、ぐるぐるとホテル街を巡る。
自分の気持ちも、はっきりしていると思っていたけれど、それくらい曖昧だったのかもしれない。
「ホテル行きたいですか?」
唐突すぎるその言葉に、思わず笑いそうになった。
そこで彼女の覚悟を見た。
濁ってるけど、きれいな水たまりだった。
ホテルに入った瞬間、あとはただの流れ。
何も特別じゃない、ただ性欲を満たす時間。
彼女は受け身で、やはり経験の少なさを実感した。
胸の奥に、少しだけ重さが残った。
終わったあと、関係ははっきりした。
勿論、都合のいいふたり。
欲望を交換するだけの関係。
でも、ときどき、彼女の目が真っ直ぐに何かを映す。
俺の中の何かを、見抜こうとする視線。
それは、ただの反射じゃなかった。
水たまりが空を映すように、
彼女は俺の孤独を、静かに見ていた。
性欲だけでよかったはずなのに。
水たまりに映った空は、本物じゃない。
けれど、たしかにそこにあるように見える。
そんな幻に、俺はすこしだけ、、
6/5/2025, 11:44:14 AM