G14

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 放課後を告げるチャイムが鳴る。
 それを聞いたクラスの皆が、勉強も時間から解放されたと歓喜の声をあげる。
 かくいう僕も、その中の一人だ。
 部屋で、ゲームと漫画が待っている

 晴れやかな顔のクラスメイトたちは、げた箱へと向かう。
 僕もそれに混じってげた箱に向かう。

 歩いている間考えるのは、もちろんゲームのこと。
 今日はどんな冒険が僕を待っているのだろうか。
 家に変えるのが待ちきれない!

「待ちな、飯田
 話がある」
 だが、そんな僕のワクワクに水を差す人間が一人。
 進路を塞ぐように立っているのは、クラスメイトの竹田。

 早く帰りたいと言うのに、ここ最近いつも絡まれている。
 僕の方は話がないから通して欲しいんだけど。

「どいてくれ。
 部活なんだ」
「ハッ、部活だって!?
 おまえ帰宅部だろうが」
 僕の答えに、竹田は鼻で笑う。
 無意識なのだろうが、腹が立つことこの上ない。
 そのせいで皆から苦手意識を持たれている事を、彼は知っているのだろうか?

「今日こそ、いい返事を聞かせてもらうぞ、飯田!
 俺が作ったクラブに入れ!」
「いやだ」
 僕は間髪いれず答える。
 なんども誘われているのだが、返事は変わらない。
 答えはいつも『ノー』
 僕には無駄にていい時間は一秒たりとも無いんだ。

「放課後やることなんて無いんだろ?」
「あるわ!」 
「一緒に汗を流して青春しようぜ」
「話聞けよ」
 こいつのこういうところ嫌い。
 竹田はいつも自分勝手だ。
 
「は・い・れ」
「い・や・だ」
「実は?」
「しつこい!」
 何度も断っているのに、竹田は諦めず僕を勧誘をする。
 いい加減諦めて欲しいものだが、一向にその気配はない。

「他のヤツを誘え。
 僕は入らない」
「おまえじゃないとダメなんだ」

 なんという殺し文句。
 自分の決意が少しだけ鈍る。
 でも考えは変わらない。
 青春よりもゲームの方が大事だ!

「いい加減にしてくれよ。
 なんで僕なんだ!?
 他にも適任がいるだろ」
「いーや、おまえ以外には考えられない!」

 『おまえ以外には考えられない』。
 僕はその言葉を聞いて、体に電流が走る。
 竹田は僕のことをそこまで買ってくれていたのか……

 この台詞は、僕のなかで『人生で言われてみたい言葉』堂々の一位だ。
 まさか、その言葉を言われる日が来ようとは……

 気が変わった。
 話くらいは聞いてもいいかもしれない。

「そこまで言うなら話くらい聞いてやる」
「おお、ついに決心してくれたか!」
「話を聞くだけだ」
「それでもいいさ。
 でも何から話そうか」
「そもそも何の部活だよ」
 そう聞くと、竹田は間抜けな顔で僕をみる。
 普段いきがっているこいつがこんな顔をしているのは、少しだけ面白い。

「……言ってなかったっけ?」
「クラブに入れとしか言わないから、全然知らない」
「そうだったのか……
 まあ、それは置いといて……」

 竹田はコホンと咳払いする。
 誤魔化せてないからな。

「俺が作ったクラブ。
 それは『囲碁サッカー部』だ!」
 今度は俺が間抜けな面をする番だった。
 『囲碁サッカー』とは、『日常』という漫画に出てくるトンチキスポーツだ
 もちろん存在しないし、ルールも不明。

 なんでそんなクラブを立ち上げるんだよ。
 おまえおかしいよ。
 話を聞くなんて言わなければよかった

「というわけで……
 入れ、飯田。
 おまえが必要だ」
「その文脈で、なんで俺が必要なんだよ!」
「おまえ、漫画に詳しいだろ。
 だから囲碁サッカーの事も知っているはずだ」
「僕は知らないし、お前も知らないスポーツのクラブを作るな!
 僕は入らないぞ、絶対にな」
「入るって言っただろ?」
「言ってねえよ!?」
「言質は取ったんだ。
 逃がさないからーーおい、どこ行く!
 今から入部届け出しに行くんだろ!
 待てって!」

 そんな意味不明な部活で貴重な放課後を潰してたまるか!
 僕はその場から全力で逃げ出す。
 そのお陰もあって、難なく竹田を撒くことに成功する。

 だがこれでヤツが諦めるとは思えない。
 今日はなんとか逃げることが出来たが、明日もきっと来るだろう……
 でも僕は屈しない。
 ゲームの時間を確保するため、理由のわからないクラブに入ったりするものか!

 僕の平和な放課後を守る戦いは、まだ始まったばかりだ。

10/13/2024, 2:28:32 PM