「あーもう、どうしよう……」
開いたっきりカーソルの動かない文書作成ソフトに、やたらに開かれた統一性のないサイト。散らばる用紙には、自分ですら読み直せない殴り書きで記される文字列。眠気覚ましにと机上に置かれた深淵を覗いたような液体はとうに湯気をなくし冷え切っている。
「全然、思いつかない」
趣味が高じて描き始めた文章は運良く世間に受けいれられたらしく、今や生活のための一部にまでなっていて。そんなこんなで早数年。ありがたいと同時に、新人と呼ばれなくなった今日この頃、かなり切実な問題に直面することも多くなった。
物書き誰しもが経験するであろう避けて通れぬ試練。すなわちスランプ。もしくはネタ切れ。
「1ページも進んでないし」
描きたかったはずのキャラにストーリー。書き溜めた設定は十分に練られていて、今のところ評判も悪くない。愛着もあるしやる気も十分で、時間だって有り余っている。なのに遅々として進まない。
「この子どんな子だっけ?」
『この私を忘れるとは貴様の頭は飾りか?』
「ふえ!? 誰???」
『貴様は自分の子を覚えていないというのか。醜態を晒し続ける前に手伝ってやるのだから感謝しろ』
とつぜん頭の中に直接語り掛けるようにして聞こえてくる尊大な声。どこかデジャブを感じるそれに首を傾げれば、はっ っと鼻で笑われ流れるように貶された。
子? 子ども?? 独身なのに子ども??? 頭にハテナを埋め尽くしながら目の前のモニターをなにとなしに眺める。過去に書かれた文字列を認識した瞬間に霧が晴れたような心地がした。
何よりも大切な我が子。
話しかけてくる存在の正体。
理解できなかった投げかけられた言葉の意味。
「……うん。ありがとう」
次の話はきっと、特別なものになる。そんな気がした。
テーマ; 【君の声がする】
ごくたまに、作品を書いていて勝手にキャラが動くことがあって そんな時に彼らの声を聞いたような不可思議な心地がします。
2/15/2025, 12:56:23 PM