シシー

Open App

 信じられるものなんてどこにもない

 何不自由ない、とまではいかない冷めきった家庭だ。
昔ながらの長男第一主義の考えが色濃く残る田舎町の一般家庭である。別にそれ自体に問題はない。時代錯誤だろうが家を出てしまえば関係ないことなのだから気にすることなど一つもないのだ。

 そう、家さえ出てしまえば、ね

 やりたいことも将来の計画も何もなかった私には逃れられないものだった。長男である弟ばかり気にする家族の中でただ両親の関心や愛情を求めた。殴る蹴るの暴力や聞くに堪えない暴言であっても、それは私にとって愛情表現の一部として認識する以外の選択肢はなかった。
無駄に反抗して痛い思いをする妹がバカだと思った。軽いビンタや蹴りや踏まれるだけなら怪我もせず大した痛みもないのになぜ耐えないのか、ずっと疑問だった。

 数年もして、成人してようやくわかった

 耐えてきた私の精神も身体もボロボロで従順になる他に選択肢はなかった。いくら壊れても妄言と断じて言葉すら届かない。
対する妹は、絶対的な味方を得て結婚も子供も、絵に描いたような幸せを手に入れていた。
 一体何がそうさせたのか、私には終ぞ知り得ないことだ。

 両親が離婚するための話し合いが行われた

 さっさと壊れてしまえ、と思う私にはどうでもいいことだった。明日の天気よりもどうでもいいことで、不幸になればいいとすら思う相手に一欠片の同情すらない。
話し合いがはやく終わるようにと分かりやすく注釈もして、それでいてどちらにもつく気はないと宣言してその場を離れた。はやく終われ、終わってしまえ、いらない私を捨てて自由にしてくれ。

 選択肢はあっても選ぶ権利のない私にできること

 きっとは必ず訪れるものであって、それは望まれたこと。終わりにすること、お金も時間も手間もかけなくて済むにはどうすべきか、そんなことずっと前から言われ続けていた。どうにか抗って罪悪感と後悔でいっぱいにして壊したいから、奥歯を噛み締めて耐え抜いた。
 私の努力をどうか、どうかあいつらに思い知らせたい。

 この背に羽が生えることなんてありはしない

 もし生えることがあったならその全てをガラスの破片に変えてあいつらに突き刺してやろう。私の痛みや悲しみの全てを受け止めて死んでほしい。

 その選択をさせた責任を果たしてほしいの




                【題:揺れる羽】

10/25/2025, 3:48:41 PM