クロノネコスキー

Open App

雨が降っていた。
いろんな音が聞こえていたが
俺は雨の音に集中していた。

しかしそれも長くは続かなかった。
なぜなら人の声は何よりも耳に届き
理解できる言葉はどうしても脳を刺激するからだ。

聞こえた言葉はいくつかあった。
聞こえた声もいくつかあった。
どれも耳を塞ぎたくなるような言葉。
そしてどれも容易に状況が想像できる言葉。

でもその中でひとつだけ、はっとさせられた言葉があった。

『ありがとう。ママ。』

か細く震える声だった。
今にも消え入りそうな女の子の声に聞こえた。
悲嘆や苦しみや憎悪などではなく、
その声はとても穏やかにそう呟いていた。

こうなってしまってからどれくらい経っただろう?

スマホのアラートがけたたましく響いたのが昨夜の22時半頃だったと思う。避難警報なんて意味無かった。それは一瞬で、気付けば天井が目の前にあって、もはやそのスマホもどこに行ったか分からない。探すことも出来ず体を動かすことも出来なくなっていた。。

全身に力が入らない。
痛みももはや分からず、
自分の体がぶるぶると痙攣しているのが分かった。

少し眠かった。
無意識に目を瞑っていた。
でもある瞬間、気付くと
目の前の壁が無くなっていた。
それに気付くと少し頭が疼き、
視界がぼんやりと赤く染まるのがわかった。

でも暗闇の中でやっと見えた星空。

降りしきる雨で赤い靄は晴れていき
俺ももうすぐ終わるのを感じた。

星は綺麗だった。

声も聴こえなくなった...。

10/28/2023, 8:51:00 PM