カランコロン、カランコロン。
近くて遠い下駄の音が、今日は側で聞こえる気がする。
夏の青空を見ながら微笑んでいた母の顔が、今でも鮮明に思い出される。
カランコロン、カランコロン。
2足の下駄が音を鳴らして石畳を進んでゆく。
カラン。
立ち止まったのは、見慣れてしまった墓石の前。そこに刻まれた母の名をそっとなぞるとほんの少しざらついた粉末状の汚れが付着する。
持ってきた掃除用具を使い、丁寧に掃除する。年に一度の親孝行。
仕上げに線香と、花屋で選んだ花を供える。
もっと母さんと一緒にいたかった。
そんな思いを両手で包み、1人帰路に立つ。
カランコロン。
一足の下駄が、石畳を進んでいく。
「お題 足音」#10
8/19/2025, 2:35:35 AM