ミミッキュ

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"たとえ間違いだったとしても"

「みゃあん」
 ハナの昼食を持って居室に入ると、鳴きながら寄ってきた。
「はいはい、慌てんな」
 部屋に入りいつもの場所に皿を置くと、皿の前で行儀よく座って「みゃうん」と鳴いて食べ始めた。
 術後から嘔吐防止でいつもより量を減らしているが、こうして変わらずに食べてくれて本当に嬉しい。
 ただ、ふと俺がハナを拾わなければ良かったんじゃないかとか、あの時中に入れてあげるだけで晴れた後外に出してれば良かったんじゃないかとか。
 俺がこいつの親代わりになったのは間違いなんじゃないか。
 いや、あのまま外に帰しても心のどこかで心配していただろうし、子猫一匹で外に放っておくなどできない。
 こいつを保護したのも、こいつの親代わりになったのも、間違った行動だったなんて言いたくない。
 人間にも動物にも、幸せになる権利はある。少しでもハナの幸せになる手伝いができてればいいなと思う。
「みゃあんっ!」
「うおっ」
 ハナの大きな鳴き声に驚いて我に返ると、いつの間にか俺の足元に来ていた。
 皿を見ると、既に空っぽになっていて、水も減っていた。
「今日も完食か」
 ハナを抱き上げて、ベッドの上に乗せる。
「ん?」
 背を向けたハナに疑問符が浮かぶ。
──ここ、なんかの模様みたいだな……。
 ハナはいわゆるブチ猫で保護した時から黒い斑点模様はあったが、今まで模様を気にした事はない。
──この形……。四葉のクローバーか?
 白の中に黒い四葉のクローバー。なかなかシックでオシャレだ。
「みゃあ」
「おい、じゃれんな。傷口が開く」
 模様に指を這わせていると、ころん、とこちらを向いて指にじゃれついてきた。
 小さな範囲でなら大丈夫だろうが、細心の注意を払ってハナの食後の運動に付き合う。
「はいお終い」
 自身の昼食の時間もあるので、三分程で終わりにする。
「ゆっくり寝て治そうな」
 ハナの身体に掛け布団を優しくかけて寝かしつける。
 程なくして目を閉じ、眠り始めた。
「……おやすみ」
 物音を立てないようゆっくり離れて、扉を静かに閉め診察室に戻った。

4/22/2024, 1:27:55 PM