いしか

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やるせない気持ちなら、何度もしてる。
私は、君に触る事ができないから。

ううん。この言い方はちょっと違う。
正しく言うなら、
「触ることが出来なくなった」だ。

「このはー、このはー?居ないのー?」

このやり取りはいつもの事。いつもの二人でのちょっとした遊び。

「このはー?おーい、もう出てこないなら、俺はもう帰るよー。」
「!、ま、ま、待てっ!」

私と君は目があった。なんだ、帰ろうとなんてしてないじゃないか。

「ふっ、みーっけ!」
「こいつ………、騙したなっ、…」
「あはははっ、中々出てこなかったから、お返しだよ!」
私と君、奏汰は毎日こうして会っていた。小さい頃から大きくなる今までずーっと。

「このは、俺、言わなきゃいけない事があるんだ」
「うん?何だ…?」
奏汰がこんな風に静かに言うときはあまり良いことではない。大体は悩んでいたり、困っているだ。
「何だ?なんか困った事でもあるのか?」
奏汰は一瞬目を大きくしたように思えたが、直に普通のいつもの顔に戻った。
「うううん。何でも無い!」
「何なんだっ、」
いつもと変わらない、奏汰との日々。けれど、それは突然訪れた。


「このはーっ!このはーっ!どこだーこのはー!」
いつものやり取り、いつもの遊び………の筈だった。
「ここだ奏汰っ!」いつものようにバッと奏汰の目の前に飛び出す。驚く奏汰の顔が目に浮かんだ。…………けれど、奏汰は……、

「このはー!どこだー!!か、隠れてないで……っ、早く、早く出てこーい!」

奏汰は、私の姿が見えなくなっていた。

目の前に居るのに、私が見えない奏汰。
あやかしの、私が見えない奏汰。

「こ、このは……っ、どこ……、っはやく、早く姿…………、」

奏汰はこれっきり、姿を見せることなくなつた。奏汰は分かっていた。いつか、自分が私の姿を映すことが出来なくなる事を。
それを私に伝えようとしてくれていたのに、私はまともに耳を貸さなかった。

私は今でも、また、奏汰が此処にやってくるのを待っている。例え見えなくなっても、どうしても伝えなくちゃいけない事があるから。けれど、力が小さい私はここを動く事が出来ない。奏汰が此処に来てくれるのを待つしかないのだ。
歯痒く、辛い毎日。それでも信じて待つ。

奏汰にはもう見えなくても、触れて伝えたい思いがあるから…。


「奏汰、私は、奏汰の事が好きでした。

8/24/2023, 11:15:38 AM