Frieden

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「ずっと隣で」

なんでもない、普通の日常を突き破ってきた超科学的存在。「ボクと一緒に宇宙を救ってくれ!!!」なんて荒唐無稽なことを初っ端からぬかされてからの騒々しい人生。

自分が最期の時を迎えるまで、そいつはずっと隣でやかましくしていた。

「なんでキミはベッドからなかなか出てこないんだい?」
「キミはもっと自分を大切にしたほうがいい」
「おーい!!!ゲームしようぜ!!!今回もボクが完全勝利するけどね!!!」

孤独で寂しい人生を送っていた自分に初めてできた仲間。
そいつにとって自分なんか「銀河の中の知的存在のうちのひとつ」かつ「研究用サンプル」くらいでしかないだろうに、随分と親切にしてくれた。

最初は正直信用もできないし、いきなり居候されて困惑するしかなかったが、一緒にいて互いのことが分かっていくと、「宇宙の危機」を共に乗り越えようと本気で思えるようになった。

「胡散臭い自称マッドサイエンティストの子供」から「親友」になるまで時間はかかってしまったが、そいつは諦めずにずっと自分の隣にいてくれた。

隣にいてくれるひとなんてこれから先も居ないんだろう、そう思っていた。でも、あんたは「暇つぶしだよ!!!」とか言いながらこんな人生を変えてくれた。

ありがとう。つまんない暮らしを賑やかにしてくれて。
ありがとう。毎朝作ってくれた温泉たまごトースト、美味しかったよ。
ありがとう。宇宙のこと色々教えてくれて。

ありがとう。最期まで隣にいてくれて。

でも、自分はあんたのために、何かできたんだろうか?
もう終わるっていうのに、今更不安になってきた。

身体が闇に沈んでいく。
だんだん体が軽くなっていく。
音も遠くなっていく。

……。

……あれ、まだ意識がある。というか自由に動き回れる。
隣にはあんたがいる。いつもとはうって変わって泣きそうな顔をして、「かつて『自分』だったもの」を見つめている。

試しにそばにあった花瓶を触ってみる。あ、透けて触れられない。電気のスイッチも駄目か。
どうせ無理だろうと思って、あんたの頭にチョップを仕掛けてみる。

ごちーん!!!!

「痛った!!!!はぁ?!?!!!」

「痛って、でも触れた。……おーおー、マッドサイエンティストの端くれのクセして辛気臭い顔してんな〜。」
余裕なふりをしているが自分も心底驚いている。
驚きを隠しつつ、会話を続けた。

「『チョーカガクテキソンザイ』なんだったら、冥界のことも知ってるはずだよな〜?」
「まぁもちろんだとも!!!だがキミはそういうの興味なさそうだったから、少々驚いたのさ!!!」
「もしかして、また会えたらなぁ〜とか思ってた?www」
「まさか!!!ボクが!!!キミに?!!」

「まぁ元気そうで何よりです。それよりも、前言ってた『青方偏移がどうのこうの〜』はどうなったんだ?」
「?」
「え〜……まぁ、アレだ。暇だから手伝おうと思って」
「!!!……我が忠実なる僕(しもべ)よ……再び契約を結ばん……!!!」
「ま〜た拇印かよ……」

まさか自分の人生に続きがあるとは思いもしなかった。
今度は自分があんたのために何かできたらいいな。
そう思って、自分は病院の部屋を後にした。

3/14/2024, 9:59:37 AM