初恋の日
あまりにも、笑っちゃうくらいに、まっすぐだったあの頃の自分。みんながドッジボールやら鬼ごっこで遊ぶ中、端の鉄棒にぶら下りながら花壇をぼんやりと見つめているその子を見つけて目が奪われた。入園したばかりの幼稚園で誰とも仲良くなる前に見つけた、綺麗な目の子。ゆらゆらと自分のペースで鉄棒につかまりながら揺れていて、花壇に咲く綺麗な花を見て少し微笑んでいるその子がどうしても気になり、持っていたスコップもそこそこに砂場からそろりと鉄棒に近づいた。鉄棒から落ちたと思ったら、案の定土に膝と手がびたんと張り付いた。三歳児の軽い体重と高さのない鉄棒だったために大きな音も無く、一瞬の出来事だった。土がついて擦りむけた手のひらを見て状況を理解したかのように目に涙を溜め出したその子。
花壇の下の端に咲いていた、意図的に植えられたのではない綿毛になる前のたんぽぽを根っこごとむしりとった。本当はもっと水色とか淡い色の方が似合いそうだったけど、花壇から取るのは違うし、罪悪感なくむしり取れるのが黄色い花だけだったから仕方なく。花の色よりも、自分の気持ちを早く伝えたいという独りよがりが勝っていたのかもしれない。いや、ただ単純に泣いているその子を泣き止ませたいという良心の塊だったのかもしれない。
「おれと、けっこんしてください。」
自分の求婚で涙が止まるという仮説には多少の傲慢さが見えるが、まぁ幼かったので許してほしい。しゃがみ込んで泣いているその子は大きな目を瞬いて、突き出された咲きかけのお世辞にも綺麗とはいえない黄色の花と自分を交互に見比べて、言葉を理解するまでに少しの時間を要するかのように固まっていた。涙が止まったことにほっとしつつ、何も言わないことに痺れをきらしてまた尋ねた。
「ね、いいの?だめなの?」
今考えると強心臓すぎる。
「…だれ?」
そりゃそうだ。話したこともない初対面の男子に話しかけられたらそりゃあ戸惑うだろう。今ならそう分かるけども。ただ認識されていなかったことにも何とも思わずに名乗り、困っているような顔のその子を立ちあがらせた。
「いたい?」
「うん…」
またじわじわと涙が溜まったその子を見兼ねて大声で先生を呼んだ。先生に連れられていく瀬戸際、こちらを振り返ってありがとうと言われたその小さな声と、やっぱりまだ困惑したような顔に恋を知ったのだ。それがおれの、初恋の日。
「初恋の日?ええ、んー…覚えてない……けど、好きなアイドルとかだった気がする……」
「は、それいつ?」
「3歳…?いや、4歳…?」
「いや、もうおれにプロポーズされた後だろ。浮気だ、浮気。」
「えーーーー?!あの時返事したおぼえないんだけど?!浮気も何もありません!てか初対面でプロポーズとか本当に意味わかんなかったからね?!」
「ま、それはそうだけど。」
「結局あれが今んとこ人生で最初で最後のプロポーズだったし…」
「は?だから今のとこって何?こっから先誰かにプロポーズされる気?」
「違うわ!あんたでしょうが!!あれからプロポーズされてないのが問題なんでしょうが!!」
「え、一回したからいいじゃん。本当に結婚してるし。」
「たしかに、結婚はなんでかしてるけどね!!!でもあれを一回とカウントするな!!!」
5/7/2026, 10:29:45 AM