Open App


本日のテーマ『やわからな光』

物心ついた時から両親は家にいなかった。父さんは朝7時に俺が起きる頃には、すでに車で会社に出社していて、母さんも同じく会社勤めでいなかった。
なので、必然的に婆ちゃんが兄と俺と弟の親代わりだったが、婆ちゃんも大概、放任主義な人だったので、実質、俺の親代わりは兄だった。
小学生の頃、土曜日が半ドン(午前中だけ授業して昼までで帰れるのだ)で終わる日は、爺ちゃんと婆ちゃんは畑仕事をしていて昼ごはんを作ってくれる人が家には誰もいないので、兄がチャーハンを作ってくれた。俺は兄の作る塩っからい鮭フレーク入りの炒飯が好きだった。
「んまい! 兄ちゃん、料理人になれるよ、マジで」
正味の話そこまでではないが、せっかく作ってくれたので持ち上げる。
「まぁ、料理は嫌いじゃないからな」
と、まんざらでもなさそうな兄。単純な人だ。
そして、夜になると母さんが帰ってきて、夜ご飯を作ってくれる。兄が作ってくれた塩気の効いたチャーハンも好きだったが、母さんの作ってくれる料理は別格だった。中でも俺が好きだったのは、チーズをのせてオーブンで焼いて作ってくれるエビグラタンだ。
「母さんの料理が一番おいしいなあ」
「うんうん」
兄と俺がそういうと、母さんは無言で笑って、自分の分のグラタンのエビを兄と俺と、なにも言ってない弟にくれる。優しい人なのだ。
さらに夜が更けると、父さんが帰ってくる。
「父さんが帰ってきて嬉しい人~~~??」
と、帰宅するなり玄関口で、普段、無口なのに、仕事終わりでテンション高めなのかふざける父。
「「「「はーい!!」」」」
お決まりのように、母さん、兄、俺、弟の四人で手を挙げて答えてあげる。
「みんな、愛してるぞ~~!」
酒は一滴も飲んでいないのに、酔っぱらっているように、皆からそう言われるだけでご機嫌になる単純な父さんであった。

本題『やわらかな光』
あれは金曜か、土曜か……
昔、金曜ロードショーか、土曜なんとかって、夜の9時くらいから映画をテレビでやる日があった。もしかしたら今でもあるかもしれないが、俺は久しくテレビを見ていないので分からない。
とにかく俺が幼い頃の、その日……
小さい俺と弟は眠気に耐えられず、二段ベッドで眠りに就く。
父さん、母さん、兄の三人は、カーテン一枚向こうを挟んだ向こうの部屋で、テレビで映画を見ている。
カーテンの隙間から漏れる『やわらかな光』と共に、三人の笑い声が聞こえてくる。
俺は目を擦りながら起きる。仲間はずれにされているのが嫌だったのだ。
父さんと兄が映画の内容について、あーだこーだ討論してる中、ちょいと失礼と二人の前を通り過ぎ…
母さんが座っているソファの横に座り、映画の内容もロクに分かってないのにジっとテレビ画面を見つめる。
……が、眠気に耐えられず、結局、母さんに膝枕される形で眠りに落ちてしまう。
眠りに落ちる間際、蛍光灯の光と共に、僅かに感じるもの。
母さんが俺の頭を撫でてくれているのか、モミアゲのあたりに感じる人の手の感触。俺はあれが、大人になった今でも一番好きな感触だ。
だからなのだろうか,母猫が子猫を毛繕いしてあげてる動画を見ると涙が出てくるのは…
いや、べつに俺はマザコンじゃない。断じて違う! 父さん母さん爺ちゃん婆ちゃん兄、弟、皆好きだ! そこに優劣なんかつけられない! けど、やっぱり母親という存在は大きい。肯定されてる時の安心感が圧倒的に違う。
主張せず、そこにいて、いつも俺を安心させてくれる…俺にとっての『柔らかな光』の代名詞は母さんなのだ。
ますますマザコンみたいになってきたので、これ以上はよそう。

10/16/2024, 10:39:45 AM