一尾(いっぽ)in 仮住まい

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→短編・初心の灯り

 通勤で通る道に、気になる家がある。通りに面した出窓にキャンドルが置かれていて、夜になると火が灯される。
 今日も灯っていた。
 よそ様の家なので、あまり覗き込んで見ることはできないが、優しいながらも芯の通った美しい灯りは目を引いた。
「今日もろうそく灯ってた?」
 ロッカーで着替え中に同僚に訊かれて、私は頷いた。キャンドルのことは前に話していた。
「毎日、戴帽式気分だね」
「最近は少なくなったんだってね」
「あぁ、ナース帽ね。でも、ナイチンゲール誓詞はあるでしょう?」
「何となく、あってほしいよね」
 ウン十年前の看護学校の卒業式を思い出して私は言った。ナイチンゲールの灯火、そして誓い。あの日、私は立派な看護師になろうと胸を高鳴らせていた。
 私たちはロッカーを後にした。今日から深夜勤だ。
「さて、じゃあ参りますか!」
 立派な看護師になれたかは判らないが、私はずっとこの仕事を続けていて、この仕事に誇りを持っている。
 通勤途中の家は、初心を、当時の若いこころざしを私に思い出させてくれる。

テーマ; キャンドル

11/19/2024, 4:41:21 PM