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昨日は雫が頬を濡らしただけではなく、鼻水まで流して、先輩のシャツを楕円形に湿らせてしまった。

みっともないところを見せてしまったような気がして、アルバイト先の長身でイケメンの先輩に対して、目を合わせられなかった。

けれど気になってしまって仕事の合間に少しだけ見ていると、目があってしまい、少し口角を上げてにこっと笑った気がした。

あまりに自然な笑顔にホッとして心が落ち着いてきた。


これまで感情を吐露することは今までにない体験だったので、自分でも自分のことがよくわからなくなっていた。

ツンツンと脇腹に触る者がいたので、左を見たら、後輩が震えていた。

「ねぇ、今の見ました? 確実に女性のハートにダメージを浴びせるスマイル! はー幸せ」
とうっとりしていたので、

確かに昨日は少しぎゅっとされて

(距離感が零で、そうゼロで? え?)

鼻をくすぐる香りと温もりと体格の良さが伝わってきたのが蘇ってきて、

「先輩? 赤くなったりして、風邪でも引きました?」

さっき落ち着いた心がざわざわとして、(心臓がうるさいわ)

「あれ? 硬直してます? 彫刻みたい」

と後輩が訝しんで脇腹をツンツンしても動けなかった。


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「やっと終わったな」

「次の講義行こうか〜」

都心部にある伝統的な大学のキャンパスでは自由に歩いている学生が沢山居て、大学の最寄りの駅までは笑い声や物音で騒がしかった。

「なー、今日もバイト?」
と馴れ馴れしく友達が肩を叩いてきた。

「うん」

スマホをチェックしながら、歩いていたら友達が急に半眼になって、

「バイト、どう?」
と訊いてきた。

「え? 真面目にやってるよ」

「お前が怪我して以来、ラグビー辞めてさ、どうなるかと思ったらバイト始めて心配してたんだ」
と眉を寄せていたかと思えば、

「イケメン、長身、知性、スポーツ、何でも揃っているからバイト先でも騒がれてるじゃね」
と好奇心をのぞかせた顔で訊いてくる。

「彼女できた?」
何故か小声で訊いてくるので

「いや、できないよ」
とスマホから目を離して思わず苦笑してしまった。


「そうかー、お前でもまだか」
と若干嬉しそうな顔をした友達が言った。

駅に到着して、改札のところで

「ああ、これから定期通院しているところに行くからまたな」
というと、

「怪我が治るのはもう少し時間かかりそうなんだな」
とさらに心配そうにしているので、

いつも気遣ってくれる友達に対して本当のことを伝えようと決めた。


「うん、もうこの脚ではラグビーはできないんだ」

「そうか、そうなんだ。ごめん、言わせちゃって」
少ししゅんとしてしまった奴に、

「いや、気にするなよ」

と言って病院に向かった。

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※本日の2024年4月21日(日)テーマ(雫)で書かせていただいた掌編は、昨日の4月20日(土)テーマ(何もいらない)の続きとなっております。








4/21/2024, 12:18:49 PM