「この季節ってみかん、食べたくなりません?」
今日も勉強と称して学校に来ていた彼女をこの準備室に招いていた。
雪の片鱗も見せなくなった今日この頃だけど寒さは毎日肌を刺すように厳しくなる。
そんな中、彼女が鞄から綺麗なオレンジに色付いたふたつのみかんをとりだした。
久しぶりに見たオレンジ色だった。
「そういえば今年まだ食べてないなぁ…、」
そう自覚してしまうと無性に食べたくなってしまう。
甘酸っぱいみかんの味が急に恋しくなった。
「なので、ひとつあげます。一緒に食べようと思って」
「あら、ありがとう。…このみかんぴかぴかね」
「ん〜よく分かりませんけど家で食べて美味しかったので先生にも冬のおすそ分けをとおもって!」
ぜひ食べてください、にこにこの笑顔で言われて不意にもきゅん…と胸がなった気がした。
それを誤魔化すようにみかんの皮と白い筋をとってひとつ口に放り込む。
甘い味が口の中で弾けてあとから独特のすっぱさがふんわりと漂う。
甘さとすっぱさのバランスが取れた完璧なみかんだった。
「ん、美味しい……!それにすっごい甘い。」
「でしょ!先生にたべてもらいたかったんです」
「今まで食べたどのみかんよりも美味しい、」
「……せんせ、食べ物はなにを食べるかじゃなくて、誰と食べるかですよ」
「…なるほどね。貴方と食べるから美味しいのかな」
ふざけてそんなことをサラッと言えば急に黙ってしまう。
あれ、てっきり何馬鹿なこと言ってるんですか!と叩かれる覚悟ぐらいはしていたのに。
すぐ隣を見れば顔を赤くして下を向く貴方。
何その顔…ちょっと可愛いじゃん、なんて言いそうになって慌てて口を噤む。
貴方がこれ以上顔を赤くしちゃったら困るし美味しいみかんに免じて可愛い顔は見なかった事にしよう。
2023.12.29『みかん』
12/29/2023, 2:16:51 PM