安心と不安
『安心と不安』
俺は橘傑、3ヶ月ほど前に高校3年生になったばかりだ。
簡単に言うと俺は無感情な人間だ。
昔は感情を全っく表に出さないせいでみんなからよく怖がられたり、避けられたりするようになり小学生の頃は友達がいなかった。
親に嘘でもいいから周りに合わせて感情を出せと言われた。
だから中学からはみんなが笑えば自分も笑う、みんなが怒れば自分も怒る、みんなが泣けば自分も泣く、みんなが楽しそうであれば自分も楽しむふりをした。
嘘笑い、嘘怒り、嘘泣き、嘘楽しみ、俺が出す感情には全てに嘘がつく。
そんな生き方をしているうちに周りに合わせるのが、嘘が得意になっていた。
俺が出す感情はすべてが嘘、嘘で作り上げられた人間だ。
そんな自分が嫌いだった。
そして怖かった。
何が怖いかというと、いつか誰かを傷つけてしまうんじゃないかということだ。
『不安』だ。
拓史「俺、明日の試合でダンク、決めるわ」
徳馬「は?!、無理だろ、チビには笑」
拓史「チビじゃねーよ!笑」
バスケ部のみんなが笑った
傑「あははははっ」
だから俺も笑った
ちゃんと笑えてるか?俺
彩子「あの、す、すみません!、たったたたた橘先輩、先生が呼んでます」
男の声しか聞こえないバスケ部が練習している体育館の入口の方から見知らぬ女子生徒の声が聞こえてきた。
徳馬「おいっ傑!彼女か?笑」
傑「ちげぇーよ笑」
ちゃんと笑えてるか?俺
この女子生徒は一ノ瀬彩子という名前で、3ヶ月前に入学したばかりの1年生らしい。
一ノ瀬さんも職員室に用事があったらしく、2人で職員室まで行くことになった。
傑「ごめんね、うちの顧問面識のない生徒にもすぐ雑用とか押し付けるタイプの先生だからさ」
彩子「いや、全然大丈夫です!」
傑「まぁ、本人がそう言うならいいか、でも嫌だったらちゃんと言いなよ、あの先生も別に悪い人じゃないからさ、先生は誰とでもすぐ仲良くなれるような人だから、すごい人だよ」
彩子「そうなんですね」
彩子「えっ!?、橘先輩腕にめちゃ包帯みたいの巻いてるじゃないですか!、大丈夫ですか?、あっ!もしかして厨二病ですか!?、厨二病の人ってこういうのふれられるとすごく流暢に喋り始めちゃうんですよね、もしかしてそういうタイプだったんですか!?」
傑「急にめちゃ早口だし、すごい妄想だな笑、これはそういうのじゃないよ、テーピングってやつだよ」
彩子「そうだったんですね、良かった」
傑「なんの安心?笑」
彩子「これがテーピングってやつか、初めて見ました、すごいですね」
傑「ふふっ好きなだけ見ていいよ、ほらっ」
ちゃんと合わせられてるか?俺
彩子「おー、ふむふむ、頑張ってる証ってことですよね」
彩子「先輩って友達が多くてすごいですよね、私友達1人しかいないです。」
傑「そんなことないよ、それに友達1人もいたら充分だよ」
彩子「橘先輩って頑張り屋さんですよね!」
傑「頑張り屋さん?」
彩子「はい!だって今の世の中共感が全てだから友達を作るにはみんなに合わせないといけない。そんな事ができる橘先輩は頑張り屋さんです!」
傑「、、、、」
俺は今心から嬉しいと思えてる。
報われた気がした。
初めての感覚に驚いて固まってしまった。
これも初めてだ。
彩子「あっ、すみません偉そうなこと言って」
傑「いや、全然大丈夫、むしろ、、、ありがと」
気付けばもう職員室の前についていて、本当ならここで話は終わりのはずだったが
傑「でも、、でももしボロが出てしまってみんなに合わせられなかったらどうすれば、みんなの期待を裏切ってしまうようなことになったら、、、」
彩子「、、、、」
傑「ごめん、今のは忘れてくれ」
彩子「ボロが出たぐらいじゃみんな失望したりしないですよ、だって橘先輩が頑張り屋さんってみんな知ってますから。」
それから俺が卒業するまでの間たまに一ノ瀬さんに話しかけるようになった。
でも嫌われるのが怖くて片手で数えるほどしか話しかけられなかったが一ノ瀬さんは俺が話しかけてくれるおかげで友達も増えたと喜んでいて良かった。
俺はまだ『不安』だったんだ。
7年後
「みなさんはじめまして、今日から入社させてもらいました一ノ瀬彩子です!どうぞこれからよろしくお願いします!」
俺の目から涙が出ていた。
心の底から泣くのは初めてだ。
俺の初めては全て彼女だ。
3年後
徳馬「おー、やっと来たか、久しぶり、でもないか1週間前に式場で会ったばかりだもんな」
俺は友達の徳馬の家に来ていた。
そこにはバスケ部のみんなもいた。
(ちなみに妻は自宅で友達と会っているらしい)
自然と学生時代の話をしているうちに時間が過ぎていた。
徳馬「そういえばさ、傑はなんで一ノ瀬ちゃんを好きになったんだ?」
傑「彩子は俺の『不安』をも掻き消してくれるくらい『安心』を与えてくれる存在だったから」
1/26/2024, 10:32:17 AM