白糸馨月

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お題『失恋』

『別れてほしい』

 とLINEが来たので、スタンプで『了解』と押した。向こうからは返事はないが、正直そこになんの感慨もわかないことに自分で驚いていた。
 べつに好きでも嫌いでもなく、とりあえず彼氏が欲しかったから付き合っただけだ。彼は最初から私に気持ちを伝え、事あるごとに「好き」と言われ、付き合ったその日にいきなり口づけされた。
 だが、それとなく手をつなぐのを拒んだり、「公衆の面前で好きっていうのやめて」と幾度となく言って、そのたびに「これらは譲れないんだ」なんて言われて聞いてもらえなかった。
 こうなることは、もう時間の問題だったと割り切ってLINEを閉じると、ニュースサイトの通知が入ってくる。

『【速報】A、一般女性との入籍を発表』

 その瞬間、私は寝転がっていたベッドから転げ落ちた。Aは私が心酔しているイケメン俳優で、出来れば彼みたいな人と付き合いたいと日頃から願っていた。

「嘘だ。こんなの……絶対、嘘だ……」

 向こうは私のことなんか知らないが、私はテレビドラマやら通った舞台やらで彼のことを知った気になっている。推しの入籍というニュースに、私は心の穴が急にペンチで開けられた気分になった。

6/3/2024, 11:28:06 PM