酸素不足

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『風に身をまかせ』


風が、ふわりと私のスカートを撫でる。
髪をくすぐる心地良い風に、心が暖かくなる。
すぅーっと、肺いっぱいに空気を吸い込めば、春の匂いが身体中に行き渡る。

「怖くなった?」
「んーん。風が気持ちいいなーって思って」
「たしかに。このまま、風に乗って飛べたら、楽しいかもね」
「それも良いね。鳥みたいに飛ぶのって憧れる」

空を見上げながら、二人で他愛もない話をする。
二人の間を風が流れて、どちらからともなく、手を繋いだ。

「本当に良いの?」
「うん。私は、きみとずっと一緒にいたいから」
「ありがとう。僕も、最期まできみと一緒が良い」

繋いだ手をぎゅっと固く握り合って、私たちは向かい合う。
おでことおでこをくっつけて、お互いの体温が混ざり合うのを感じる。

「それじゃあ、いこう」
「うん」

そのまま、ゆっくりと体を傾ける。
降下するのは、一瞬。
身体中を強く包む風に身を任せて、私たちは、幸せを目指して落ちていった。

5/14/2024, 2:04:12 PM