長い長い黄金の髪をした美しい裸の女神がいた。女神は遠い遠い昔から、一瞬も立ち止まることなく歩き続けていた。女神が止まる所に永遠の幸福が訪れる。誰もが女神を止めようとした。だが、誰一人女神を止められなかった。
女神は街道に現れ、西の王国に向かっていた。知らせを受けた王は、女神をもてなすため、街道に無数の花々を飾らせ、美食とドレスをずらりと並べさせた。
七色の花びらが舞う中、女神は王国に現れた。王は千人の家来達を従え女神を出迎えた。恭しく頭を下げる王。一瞥もせず通り過ぎる女神。
女神様、お止まり下さい。お望みのものをいくらでも差し上げます。
懇願する王。
一顧だにせず進む女神。
女神様、お止まり下さい。この国を差し上げます。我らが女王とおなり下さい。
追いすがる王を振り払い、女神は歩き続ける。
ならば、力ずくで。
王は合図を送った。
街道脇から千人の兵士達が現れ、女神の前にずらりと並んだ。
捕らえよ!
兵士達は女神に次々と飛びかかった。女神は、ふっ、と息を吐いた。
うわぁっ!
タンポポの綿毛のように次々と吹き飛ばされる兵士達。女神は歩み続ける。
追え!
王が命じる。
兵士達は女神の後を追った。
女神は大河のほとりにたどり着いた。
女神は大河に入って行くと、兵士達の目の前で水となり消えた。
探せ!
千人の兵士達が千日もの間探したが、女神を見つけることはできなかった。
水となった女神は大河を下り、東の海にたどり着いた。貧しい村々が点在する、どこまでも続く砂浜。小雪が舞う中、女神は元の姿で海から現れ、砂浜を歩き始めた。
砂浜では、幼い男の子が一人遊んでいた。男の子はボロボロの小さな毛布をいつも持ち歩いていた。それは、男の子が生まれた時からのお気に入りだった。
これあげる。寒いでしょ。
男の子はずぶ濡れの女神を見つけると、駆け寄って毛布を差し出した。
ありがとう。
女神は喜んで受け取った。
女神は毛布を羽織ると、立ち止まり、辺りを見回した。
気に入ったわ。ここで休みましょう。
女神は浜辺に横たわった。
翌朝、男の子は女神を起こしに砂浜に来た。だが、女神の姿はない。男の子は砂浜が黄金に輝いていることに気づいた。
砂浜の砂は全て砂金となっていた。砂金は採れども尽きることなく、村々は千年もの間富み栄えた。
2/17/2024, 3:41:36 PM