明永 弓月

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 どうか彼女が生き延びてくれますように。

 婚姻関係になくてよかった。彼女は我々と同列に扱われることはないだろう。そもそも彼らが彼女を寄越したのだから、およそ無用な心配か。彼女が彼らの駒であることにははじめから気付いていた。気付いていたが、彼女と過ごす時は心地よかった。将来について話し合った。この国をどうしていくか、民を豊かにするために何が必要か。時に他愛ない話もした。
 彼女に心を寄せるのは、当然だった。

 彼女にとって私はどのような存在だっただろう。私との別れを惜しんでくれるだろうか。そうなれば彼らは彼女を害すだろうか。彼女が生きていてくれるなら自分とのことなど覚えていなくていい。

 この城はすぐに占拠される。抵抗する気もなかったので残っている者にも暇を出した。両親は気付いてもいないだろう。この城に彼らの手の者がいることにも気付いている。その手引もあれば城の占拠など容易い。気付かないふりをしている。
 彼らにとって己が愚かであるほうが都合がいい。


 とても静かだ。元々意図的に音を立てる以外は何か聞こえるとして紙を捲るときの擦れる音が聞こえるくらいだ。それをふまえてなお、今は静かだ。この城が静寂に包まれているのも限られた時間だけだろう。ならば、この時間だけは私のために使おう。
 彼女との思い出を整理しよう。



 ――もうすぐ夜が明ける。



9/13/2024, 1:41:00 PM