誰かのためになるならば
橙色の夕日がさす教室。
いつものように、私の担当の掃除が終わって戻って来ると、学級委員長はまだほうきで床を掃いていた。
「委員長、また掃除押し付けられたの?」
がらがらと扉を開けながらそう言うと、委員長は三つ編みを揺らして、おしとやかに笑った。
「押し付けられたんじゃなくて、みんな用事があって参加出来ないだけよ」
黒縁メガネの奥の瞳は、本当に優しそうな光をたたえている。本当に用事があると思ってるのか、嫌がらせだと知りつつ受け入れているのか。私にはよく分からない。
「それ、毎日言われてるじゃん。あんな人たちが、そんなに忙しくしてると思う?」
とりあえずそう突っ込んで、教室の端の机から運び始める。
「そうねぇ。でも、用事があるって言っているのだから、私は信じたいな」
ちりとりでゴミを丁寧に集めつつ、委員長はまた上品に微笑む。
「私、掃除押し付けた日にゲーセンに入り浸ってるあいつら、よく見るけど」
どうか気づいてよ。机を一つ移動させた。
「それでもね」
委員長はまだ笑顔だ。
「私が掃除することであの人たちの気が紛れるのなら、それでいいわ」
また三つ編みを揺らし、委員長も机に手をかける。
「貴女も、私の自己満足なのに、毎日手伝ってくれてありがとう」
委員長の優しい笑顔は、何よりも眩しかった。
「なんで…」
あんな不良みたいな奴らじゃなくて、自分を大切にしてほしいのに。
誰かのために、なんて思わないでよ。
7/26/2023, 2:55:03 PM