「枯れ木に花を咲かせましょう」
おじいさんが木に登り、灰をまきました。
すると不思議なことにが起こりました。
なんと辺りの木に桜が咲き始め、辺りがピンク色に染まったのです。
まだ寒い時期と言うのに、お爺さんの庭だけが、まるで春の風景でした。
それを見た近所の人たちは、起こった出来事に驚いてしまいました。
「こりゃすごい。これからはあんたの事を、花咲か爺さんと呼ぼう」
近所の人たちは、ニコニコ笑ってました。
花咲か爺さんは、最近飼い犬が死んだり、道具を無くしてしまったりと不幸続き。
なので、近所の人たちは花咲か爺さんが楽しそうにしているのを見て、ホッとしました。
そして、「せっかくだから花見をしよう」と言って、皆で花見の準備をしていた時の事です。
花見を準備している人たちに、声をかける人物がいました。
「おや、楽しそうですな。儂も混ぜてもらえますかな?」
その人物は何を隠そう、花咲か爺さんの隣の家に住む意地悪爺さんです。
意地悪爺さんは、嬉しそうに季節外れの桜を眺めていました。
「何しに来た? 意地悪爺さんよ」
「言いがかりはよせ、何しないさ。
爺さん――いいや今は花咲か爺さんだったか……」
意地悪爺さんは、いかにも悪そうな顔で笑います。
「ふん、どうだが…
まあいい、貴様の因縁も今日もまでだ。」
「ほう、今日は随分と威勢がいいな、花咲か爺さんよ。
その手にある灰が、お前の頭をお花畑にしたか?」
「ぬかせ、その減らず口をきけなくしてやる」
花咲か爺さんは、意地悪爺さんを睨みつけます。
花咲か爺さんはこれまで、意地悪爺さんにたくさんの意地悪をされてきました。
もはや我慢の限界だったのです。
今回も意地悪されてはたまらないと、追い出すことにしました。
ですが、意地悪爺さんは、心外と言わんばかりに肩をすくめます。
「おやおや、花咲か爺さん。喧嘩はよくないな。話し合いをしようじゃないか?」
「ふん、お前と話す言葉など――」
「そういえば、貴様の婆さんはどうした?」
花咲か爺さんは、訝しみました。
なぜなら、婆さんはそこで花見の準備をしているはずだからです。
花咲か爺さんは、不思議に思いつつも振り返ると、そこで信じられないものを見ました。
婆さんは、意地悪婆さんに包丁を突き付けられていたのです
卑怯にも意地悪爺さんは人質を取ったのです。
「花咲か爺さん、これで自分の状況が分かったか?」
意地悪爺さんは、意地の悪そうに笑います。
「動くなよ、儂も人殺しをしたいわけじゃない
「……何が望みだ」
「花咲か爺さん、貴様の持っている灰をよこせ」
「なに?」
花咲か爺さんは持っている灰を見つめました。
「儂はそれを殿様に献上し、褒美をもらう。
なにせ、花を咲かせる魔法の灰だ。
とてもお喜びになるだろう」
意地悪爺さんの笑いは、より意地悪になっていきます。
「儂も出来れば話し合いで済ませたい。 だが渡さないのであれば……」
意地悪爺さんの言わんとすることに、花咲か爺さんは顔を歪ませました。
「さあ、どうする?」
「……いいだろう、その代わり婆さんを離せ」
「灰が先だ」
「分かった」
花咲か爺さんは、意地悪爺さんにゆっくり近づきます。
「ほら、これだ」
「ククク、これで儂も大金もち――」
「くらえ!」
花咲か爺さんは、手に持っていた灰を意地悪爺さんに投げつけたのです。
「ゴホっ、貴様何を」
意地悪爺さんは、投げつけられた灰でむせてしまいました。
そして舞い上がった灰は、桜をさらに咲き進めます。
咲き進んだ桜は、花を満開に咲かせた後、一斉に散りはじめ花びらを落とします。
ですがその量が尋常ではなく、辺り一帯が桜の花吹雪でいっぱいになり何も見えなくなりました。
「くそ、花咲かの奴め。なんてことをしやがる」
意地悪爺さんは、むせながらも半吹雪が収まるのを待ちます。
そして、ようやく周囲が見えるようになった時、意地悪爺さんは驚愕しました。
半さ梶井さんは、花吹雪で視界が塞がっている間に、人質を救助し意地悪婆さんを縄でぐるぐる巻きにしていたのです。
「形勢逆転だな、意地悪爺さんよ」
意地悪爺さんは、自らの不利を悟り、逃げ出そうとしました。
ですが辺り一面の桜の花びらで滑って転んでしまいました。
その機を逃すまいと、花咲か爺さんは縄を持って意地悪爺さんをぐるぐる巻きにしてしまいました。
捕まってしまった意地悪爺さんは恐怖に顔を曇らせます。
「お前たちをお奉行様に突き出す。 今までの証拠と一緒にな。
生きているうちに、牢屋からは出られまい」
こうして意地悪爺さんと意地悪ばあさんは、これまでの悪事を全て暴かれ、一生牢屋で過ごすことになったのでした。
そして二人を奉行に突き出した帰り道のことです。
花咲か爺さんは、婆さんと一緒に夕日を見ながら歩いていました。
「爺さんや。本気でこの灰を捨てるのかい?」
「婆さん、本気だ。この灰は争いを呼ぶ……
この世界にあってはならないものだ」
「分かりました。爺さんの言う通りにしましょう」
そういうと二人は、持っていた灰すべてを辺り一面にまきました。
すると周囲の枯れ木に花が咲き始め、すぐに満開になり、そして散り始めました。
「これでいい。桜は春に咲くからいいんだ」
花咲か爺さんは散っていく桜を眺めながら、呟くのでした。
めでたし、めでたし。
◆
「分からん、何にもわからん」
とある小学校の職員室で、教師の一人が一枚の原稿用紙の前で呻いていました。
これは、この日の授業で『昔話をアレンジしてみよう』と言ってクラスの生徒に書かせたものです。
しかしそれは建前です。
実は彼女のクラスには問題児がおり、何を考えているのか分かりません
だからその子供の考えている事を少しでも知るために、作文を書かせたのでした。
ですが、結果はご覧の通り。
最後こそいい話風に終わっているのですが、途中の展開が支離滅裂で、結局何がしたかったのか分からない。
教訓もよく分からないし、そもそも何が『めでたし』なのか?
「ていうか、小説書けなんて言ってないんだけど……」
書いてきたものは、どう考えてもラノベに影響されたようにしか思えません。
『もしかして小説家になりたいのか』と思いつつも、これ以上の分析は無意味だと諦め帰ることにしました
校門を出ると、彼女の目の前をピンクの花びらがヒラヒラ落ちていきました。
「桜散ってる。もう春も終わりかな」
彼女は桜吹雪の中、夏の訪れを感じながら家路につくのでした。
4/18/2024, 11:01:24 AM