「それでいい。」
先生はそう言ってくれた。
真夏の、とても暑い日の部活で。
僕の家は、他の家庭とは違った。
お母さんもお父さんも高学歴だった。
だからお母さんは、僕も高学歴にする為、
「勉強、部活、全てにおいて優秀であれ」と僕に強要してきた。
何も出来ない僕には、お母さんが全てだった。
一日5時間勉強しろと言われたら一日5時間勉強した。
辛くても学校に行けと言われたら学校に行った。
そんな風に、お母さんに従っていた。
そんな僕は、勉強や部活は、いつも優等生だった。
ある一つを除いて。
その一つとは、人間関係だった。
何でもできる僕に自分みたいな奴が関わってはいけないから。
僕の学力が妬ましい、羨ましいから。
多分、そんな理由だろう。
ただ、そんなに辛いとは思わなかった。
人生に人間関係は必要なものだけでいいとお母さんが言ったから。
だから中学の友達なんてどうでもいい。
夏休み。
とても暑い日に部活があった。
その日は体調が悪かった。
だけどお母さんには言わない。
意見を言う権利なんて僕にはない。
だから今日も部活へ向かった。
いつも通り。
そのはずだった。
僕は倒れてしまった。
気がつくと、白い天井。
どうやら保健室に運ばれたみたいだ。
数分して、部活の顧問の先生が来た。
僕が起きたことに気づいた時、先生は驚いていた。
でもすぐにいつもの笑顔に戻った。
「お!やっと起きたか!」
先生は僕の寝ていたベッドの横にあった椅子に座った。
「先生、倒れてしまってごめんなさい。」
先生は不思議そうに僕を見た。
「なんで謝るんだ?」
「だって、迷惑かけて、」
その言葉を先生は遮った。
「お前は迷惑なんかかけていない。
倒れるなんて誰しもあることなんだから。」
いつもとは違う、優しさも含まれている真面目な顔だった。
「今まで倒れず頑張ったお前は凄いよ。
よく今まで頑張ったな!」
そう励ましてくれた。
「倒れるのが普通なんだ。
それでいい。それでいいんだよ。 」
肩を掴んでいた手を離し、先生は言った。
「お前は頑張った。
無理しないでいいからな。」
去り際に先生は言った。
その言葉にどれだけ救われたか。
先生は知らないまま生きるのだろう。
いつの間にか僕の頬には一粒の水滴が流れていた。
それは暖かく、そして少ししょっぱかった。
その涙がばれないよう、保健室を出ていった先生へ小さく呟いた。
「ありがとう。先生。」
お題【それでいい】
タイトル【救いの一言】
4/4/2023, 2:20:36 PM