緋鳥

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たった一つの希望

 今日も散々な一日だった。
 クレームの電話で貴重な休憩時間は潰れ、後輩のミスの修正をし、突然の上司の無茶振りで企画書の見直しになり、おかげで家に帰る頃にはクタクタになってしまった。わずかな気力はコンビニで晩御飯を選ぶエネルギーに消えた。
 玄関で倒れ込む。冷たい床が頬に伝わる。このまま眠ってしまったらどんなに楽だろうと考えるが空腹が眠気に勝った。唸り、ゾンビのような動きで玄関から離れる。

 「疲れた」

 呟いても、部屋には返事をしてくれる人はいなかった。

 電気をつけ、コンビニ弁当を温める。温める間にスーツから着替え、缶ビールを飲むとアルコールが少しだけ疲れをとってくれた。

 無機質な音。温め終わった弁当を手にし、テーブルに座ると箸を片手に、スマホを片手に食事を始めた。

 スマホの画面には今年生まれた息子と、大切な妻が待受で笑っていた。

 単身赴任になって早半年。実家が子育てに協力してくれているとはいえ、妻には大変な苦労と迷惑をかけているのはわかっていた。だが、このプロジェクトが終われば妻と子供の元に帰れるのは決まっている。そのために、日々の仕事の辛さも耐えられる。

 家族の元に帰る。それが、仕事を続けるたった一つの理由であり、辛い日々を耐える希望だった。

 食事を食べ終えたら風呂に入ろう。そして通話をしてみようと思った。
 そう思うと少し気力が湧いてきた。手早く食事をする。

 早く、妻の温かい手料理が食べたいと強く思った。



 

3/2/2024, 10:37:33 AM