『失恋』
久しぶりに彼からの呼び出しがあった。
天にも昇る気持ちで、はやる気持ちを抑えて約束の場所へ向かう。
(もしかして今日こそプロポーズが貰えるのかな?いやいや、遅めの誕生日プレゼントをサプライズで渡してもらえるのかも)
期待しながら辿り着いた居酒屋で、私は地獄に落とされた。
決まりの悪そうな彼の、口をつけていないソフトドリンク。どれも現実的じゃないのに目に焼き付く。
別れ話ならちゃんと嫌いになってからしてほしい。
「君は僕にはもったいない」
そんな言葉で誤魔化され、作り笑いでさよならを言った。彼は早々に去り、私は一人居酒屋に残された。
天国から地獄に来た気分。いいえ、うすうす分かっていたけど気づかないふりをしていただけね。
彼の態度がそっけなくなったのは誕生日に会えなくなった時からわかってた。プレゼントなんかないって本当は知ってた。
でも私は恋をしていたかった。愚かな恋に溺れていたかった。彼のことが好きで、私のことが好きな彼が大好きだったから。
一人残された居酒屋でハイボールを飲みながら私は現実に戻ってきた。
「ああ、恋は辛いなぁ」
ハイボールが喉に染み渡る。大人な苦味のある発泡酒は彼の思い出とともに嚥下され、胃の奥にストンと落ちていった。
#天国と地獄
5/27/2024, 12:48:11 PM