→忍野八海とオフィーリア
忍野八海は、富士山の麓にある八つの池の総称である。非常に透明度が高い池で、人気の観光スポットだ。
その澄み切った水の見秘密は池は、富士山に降り積もった水を長い時間かけてろ過された伏流水にある。コツコツ、ポツポツ、玄武岩、砂利、砂、木の根……自然のろ過機で濾された水は、やがて池に湧き上がる。
忍野八海の湧池の水深は4メートル。面積は152平方メートルと記されているが、それほど大きな印象は持たない。にぎやかな観光地の中にある小ぶりな池という感じ。
他の観光客に倣って、気負いなく池をのぞき込む。その瞬間、私の足の裏から脳天に震えが走った。
池は、すり鉢状ではなく、縦坑のような形状をしていた。それだけでも井戸をのぞき込むような怖さがあるというのに、湧池の水は恐ろしく透明なのだ。
深い池を鱒が自由に泳いでいる。遠く深くに水底が見える。透き通った水は光を遮らず、遥か底でも見通せるのだ。「見通す」という単語がこれほどピッタリ当てはまるとは。
じっと見ていると、池に引っ張られそうになる。手すりを頼りに正気を保つ。
圧倒的な純粋度を感じさせる水にこんな意識的とも思える力があるとは思わなかった。
安直ながら、私は戯曲『ハムレット』のオフィーリアを思った。恋人やら周囲に振り回されて、自分を失ってしまった彼女。小川の傍にある柳に花輪を掛けようとして足を滑らせてしまい、彼女はその命を終える。
オフィーリアは、小川に流されてその最期の時を過ごす。きっとその時の小川の水は、この湧池の水のように恐ろしく意識的であったのかもしれないな、などと私は妄想を彷徨わせた。
テーマ; 青く深く
6/30/2025, 1:31:40 AM