夏休みになると飛行機で祖母の家に行っていた。のだが、ある日私は「列車で行きたい!」と伝えた。突然の要望に「どうしたの?」と母は当然の質問を向ける。私は目を爛々と輝かせ答えた。
「青函トンネルに行きたい!」
青森と函館を結ぶ、世界最長の海底トンネル。そんなトンネルがあるのをテレビで知り、どうしても行きたくなっていた。母の嫌がる素ぶりを確認しつつも説得を頑張り初体験の切符を手に入れた。
スケジュールの都合で父だけ飛行機で、母と妹と駅に向かった。特急カシオペアに乗り込む。初の寝台列車に感動した。見知ったと言うほどでもないが、いつもの駅を出発して列車は進む。街、建物、川、木、ビル、駅、木、川、木、色々を、通り過ぎながら。無駄にベッドで横になったり、食事をしながら過ごす。
待ちに待った、青函トンネル。
行けども行けども、トンネルの壁。黒、ではない、よく見るトンネルの壁。行けども行けども壁。
私は----がっかりした。
海底トンネルと聞いて、水族館のアクアトンネルを想像していたのだ。いつかそんな景色が広がるのではないかと粘ってみたが何も変わることはなかった。夢でアクアトンネルを楽しんだ。
終着駅に到着する。こんなはずではなかったと思いつつ、自分から言い出した手前そんな事も言えない複雑な顔をした私に、母が尋ねた。
「楽しかった?」
「次は船で行ってみたい」
「船かぁ…」
母は私以上に複雑な顔を浮かべた。
「列車に乗って」
3/1/2024, 9:13:40 AM