うどん巫女

Open App

行かないで(2023.10.24)

『お話したいことがあります』
そんな文面で始まるLINEの通知を見て、一瞬ぎょっとした。相手によっては、なんだかこちらに都合の悪い話をされそうな書き出し。しかし、送り主は最も親しい友人で、最近喧嘩などしたわけでもない。どうしてこんな改まったような語り口なのだろう、と訝しむ気持ちと、薄々何の話題かを察したような気持ちのまま、LINEを開く。
『あの人と、お付き合いすることになりました』
「あ、やっぱり」思わず声に出して納得してしまった。最近ずっと友人の恋愛相談もどきのようなものを聞いていたので、それほど大きな驚きはなかった。とはいえ、やはりおめでたいことなので、言葉を尽くして祝福のメッセージを送る。
そうしてしばらく会話が続いた後、一息つくと、俄かに猛烈な寂寞が胸に湧き起こった。
いやいや私よ、あの子に恋人ができたところで、私たちが友達であることには変わりないじゃあないか。それとも、構ってもらえる機会が減るのが寂しいのか?友人より恋人を優先するのなんて当たり前だし、きっとこれからも無下にはされまい。何をそんなに悲しむことがあるものか。そう自分に言い聞かせても、やっぱりわだかまりは残る。
意味もなく友人とのLINEの会話の跡を眺めながらしばらく考えて、あぁ、と得心した。きっと私は、置いていかれるのが寂しいのだ。いつまでも子供っぽい私と、青年期の複雑な感情を抱えたあの子。「恋人」という、私自身には想像もつかないような関係性を持ったあの子。それが、なんだか私だけ取り残されているようで、置いていかれたようで、どうしようもなく寂しいのだろう。
気づいてしまえば、なんとも子供っぽい、誰かに話すのも憚るような、くだらない心情だ。こういう気持ちに区切りをつけなければ、いつまで経っても置いていかれたままだと。そう、わかってはいるのだけど。
私を置いて行かないで。今日だけは、そう思ってもいいだろうか。

10/25/2023, 9:51:54 AM