n.n.

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過ぎ去った日々よ。
嗚呼、出来ればあの頃に時を戻してくれ。

俺は何度そんな風に後悔をして来ただろう。


今こうして俺の話を聞いてくれているみなさんは、
かつて俺のバレンタインの話を聞いてくれたみなさんだろうか?

知らない人の方が多いと思うので
軽く説明させてもらうと、


1.春休みに家に引きこもってゲームをしている間にバレンタインを忘れて日が過ぎ

2.告白しようと思っていたのでそれに気付けたすぐ、バレンタイン2日後に久しぶりに家を出たが

3.既にホワイトデーのPOPがでかでかと掲げられていて嘲笑われているような気持ちになり泣きそうになった


…そんな情けない話だ。

結局あの後どうにか会って気になる子と話をすることはできたものの。
バレンタインが過ぎゆくまでうんともすんとも言わなかった俺のスマホは予想していただろうな。
見事に玉砕した。

昨年まで顔も名前も知らない老若男女から
毎年食べ切れないほどのチョコレートを受け取って
きた俺が人へ思いを伝えたのは初めてで、
正直かなりショックで3日は寝込んだ。


…こんな情けない話をすることを厭わないのは、
今回もまた、同じように情けない話をご披露する事になるからだ。

そうだ。また俺はやってしまった。
いや、そりゃあホワイトデーはまだ過ぎていない。
過ぎてはいないが。


…一流のパティシエみたいにお菓子を作るのが上手くなって、めちゃくちゃ美味いお菓子をもってホワイトデーにまた思いを伝えようと思っていたのに!!!

あと!!!4日しかない!!どうしよう!!!


…玉砕し3日寝込んだ後、俺が何をしていたかというと、…またゲームだと思っただろう?

…違うのだ。なんと俺はその後、


…究極のラーメンを作る修行をしていた。


何を言ってるか解らないと思うが俺だって解らない。


…いや、このセリフを言ってみたかっただけだ。
実は解る。全ては俺が悪い。

運命が分かたれたその日を振り返ると、こうだ。


玉砕の悲しみから復帰した後、
俺は涙で霞む目もそのままに、
家着のまま外用のスリッパを引っかけ
家を飛び出し走り出した。

向かう先はそう。
一流パティシエのいる、家の近所のあの店だ。

あの店と言ってもみなさんは見たことがないだろう
から想像がつかないだろうが、俺の気になる子の
お気に入りの洋菓子店が近くにあるのだ。

俺はその店に向かって、一目散に走った。
猪突猛進。ひたすらに走り、
ガラガラッと引き戸を開け、腹の底から叫んだ。


「お願いします!!!
 究極の味を完成させたいんです!!!
 俺を!!弟子にしてくださいッ!!!!!」


霞む目もそのままに全力で走ってきた為、
前が見えない。曲げた膝に手をついて、
はぁはぁと息を整え、目を擦り正面を見た。


するとどうか。目の前に見える光景は、
俺が想像したものとは全く違っていた。

俺がよく通っているラーメン屋の店主が、
キラキラとした目をして
こちらを見ているでは無いか。


…ああ、そういえば俺、
開け慣れた引き戸を開けたな、たった今…。


大人気洋菓子店の扉が、
引き戸であるはずが無かった。
(いや、そういう場合もあるだろうが。)


そんなこんなで俺は、おなじみの大将に弟子入りし、
約3週間ほど究極のラーメンを作る為の
修行をしていた。
どうやら俺はラーメンを作る才能があったらしく、


「…もうお前に教える事は何も無い。
 お前はもっと上を目指せる人間だ。
 俺なんかより遥かに美味いラーメンを作ることが
 出来るようになるだろう。こんなところで燻って
 いないで、もっと凄い職人の元で腕を磨け。」


大将にそう言われて、たった今解放されたところだ。

…新たに発見した、磨くつもりの無い
俺の才能のおかげで、どうにかホワイトデー前に
店を出ることができたものの。

あと4日ではどう考えても、一流パティシエ並みの
お菓子が作れるとは到底思えない。
…いや、また新たに俺の才能が開花する可能性に
賭けてみるか…?

しかし、ラーメンを作ることについても、
大将に認められるまで2週間以上掛かったのだ。
もし才能があったとしても、
そうそうあと4日では極められるはずが無い。


俺は覚悟を決めた。


もう、このまま後4日、
全力で美味いラーメンを作ることに集中して、
今の俺が出せる究極の味で、
あの子に惚れてもらうしか無い…ッッ


そうと決まれば俺はまた新たな師匠を探しに行く。


今度こそ、今度こそだ。


みんな、今回もこんな俺の話を
ここまで聞いてくれてありがとう。

きっと、もうこの味が無いと生きていけない!と
あの子に思って貰えるような味に
辿り着いて見せるから…。


応援していてくれると嬉しい。

3/10/2023, 1:21:02 PM