湿った空気が頬を撫でる。
彼と喧嘩をして、思わず家を飛び出してきてしまった。
しかし、冬の始まり、しかも雨上がりの夜の空気は、コートも持たずに出てきた今の私にとっては冷たすぎた。
彼と付き合って5年になるけれど、こんな大喧嘩をしたのは初めてだった。
始まりはカップルならよくある些細なことだったが、私も彼も引くに引けなくなって。
私は思ってもないことを散々口走ってしまった。
彼の驚いたような、傷ついたような表情に気づいていたのに、それでも私は謝ることをしなかった。
完全に私が言いすぎてしまったこの喧嘩、今更謝るのは彼にとっては腹立たしいことだろうか。
それでも、寒空の下に震える私をどうか嘲笑ってほしい。
愚かだと。
滑稽だと。
そしてどうか、抱き締めて許してほしい。
しかし、そんな傲慢な願いは冬の湿った空気に溶け込んだ。
もう、別れてしまうのだろうか。
そう思うと、涙がとめどなく溢れ出てきた。
どんなに酷いことを言っても、彼を好きな気持ちに嘘は無い。
___別れたく、ないな。
気づけばそう呟いていた。
その瞬間、柔らかな布が肩にかけられると共に、思い切り抱き寄せられた。
「俺も別れたくないよ」
聞き慣れた優しい声、だけど、震えている。
大好きな彼が私を抱き締めている。
「ごめん、本当にごめん。離れたくない」
___私も、ごめんなさい。大好きだよ。
お互いに涙を流しながら、雲が流れ星が輝き始めた冬の夜空の下で愛を伝え合う。
暖かくて、幸せな時間。
「もう二度と涙を流させないって誓うから、どうか俺と結婚してくれませんか」
___よろしくお願いします。
体を寄せ合い、額をくっつけて微笑み合う。
私たちは今日、夫婦になった。
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『夫婦』
11/22/2024, 12:47:24 PM