粉末

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遠目から見ているぶんにはまだ…まあ、うん。
少し寒気がするくらいで済む。
ところがだ。風の悪戯かはたまた奴らの意思か。
急にこちら側に牙をむけたのなら話は別だ。
古代の神々に目をつけられた人間のように俺は無力になる。自分よりもずっと小さな体の奴らから情けなく逃げ惑うほかないのだ。

「…こいつが?」
「ああ、こいつだ。」
「…ただのチョウだが。」
「そうだ。ただのチョウだ。何か問題あるか?」
「…いや。」
「だろ?だから早く追っ払ってくれ。」

天気も良いしたまには自転車で買い物に行こうと思った矢先の出来事だった。こいつがサドルにとまっていた。手で仰いでもびくともしない。これ以上刺激してこちらに向かってきたらどうする。想像しただけで鳥肌が立つ。正気でいられるわけがない。近所中に俺の叫び声が響き渡るぞ。他人事だと思うなよ。もちろんお前も巻き込んでやるからな。

「おら。追っ払ったぞ。」
「すまない。助かる。」
「礼ならいくらでももらってやる。キスでいいぞ。」
「今言っただろ。これ以上は無い。調子に乗るな。」
「…ひでえダーリンだ。」
「なんとでも言え。じゃあ行ってくる。」

赤白黄色のチューリップのまわりを飛びまわる姿。
遠目から見る分にはかわいいだけ。
しかし近付いてよくよく見るとわかる本来の姿を知り
恐怖を感じるかもしれない。幻滅するかもしれない。

「俺は嫌いじゃねえけどな。白いチョウ。」

本性を隠した俺のチョウは白いシャツを風になびかせひとり気ままに出かけて行った。おそらく帰りは夕方になるだろう。


モンシロチョウ

5/11/2024, 4:31:10 AM