無音

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【81,お題:忘れたくても忘れられない】

脳裏に強く強く刻み込まれた”あの光景”
何度も「忘れてしまいたい」と願った、だが忘れられない 忘れてはいけない

(...ごめんなさい、僕のせいだ...)


夏の終わりかけ、秋の気配が近付いてくる
最近は風が冷たいね~って、兄と一緒に話しながら歩いてたおつかいの帰り道

横断歩道を渡ってたんだ、教えられた通りに
兄は心配性だから「絶対道路に飛び出しちゃダメだよ!信号機が青になってもちゃんと周りをみてから...」
って、いっつも言い聞かされてた

俺、ちゃんと周りみたよ 手もあげて転ばないように歩いて渡ったんだよ

でも、神様って意地悪だ

「待って!彼方っ!」

「お兄ちゃ...」

ビーーーーッッ!ギギキィィィッッッッ!

耳の張り裂けそうなほどの急ブレーキ音、周りを歩く人々から悲鳴が上がる
突き飛ばされて転がったコンクリートのざらついた感触
誰かの吐いたものが下に落ちる音、誰かがカメラアプリを起動させる音

血肉がひしゃげ、ゴムが擦り切れた不快な臭い

そして..................



あの日から、俺は声がでない 喉に問題がある訳じゃないし、怪我をしたわけでもない
だが、発音しようとすると途端に喉が締め上げられるように息が詰まってしまう

兄の死を間近で見てしまった事が原因とされている

今でもあの光景が忘れられない、呪いみたいに脳に深く刻み込まれていつまでも消えない傷
トラックとガードレールに挟まれて押し潰された、ついさっきまで兄だった肉塊
ドラマで見るような綺麗な死体じゃなかった、見るだけで胃から酸っぱいものが込み上げてくるような
原型がわからない程のぐちゃぐちゃ腐乱死体

何度も忘れたいと思った、でもその度に身を挺して俺を守ってくれた兄の顔がよぎる

...俺が、死んでしまえばよかったのに

フラッシュバックする光景に言い様のない吐き気を感じながら、脳内で再演される”あの日の惨劇”を目に焼き付ける
自分のせいで兄が死んだこと、それを忘れないことが

僕にできる、たった1つの贖罪だと思うから

10/17/2023, 2:20:49 PM