秋茜

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“眩しくて”

「なあ、聞いてっか?」
「……は!」

 声をかけられて我に返る。は、じゃねーよ、と呆れ顔で息を吐かれた。今のはどう考えても自分が悪いとわかっているから、何も言えずにまごつく。その様子を見た彼は、ますます不服そうに口を尖らせた。

「何考えてんの、オマエ」

 言葉は強いが別に怒っているわけではないのだと。最近ようやくわかってきた。今の場合、ただ純粋にオレが何を考えていたのか知りたいだけなのだ、彼は。
 そう、わかっていても怯んでしまうのは、元来の気の小ささと──あとはほんの少しの気まずさだ。とはいえ口を噤んでいても彼は納得してくれないだろう。それどころか、次こそ本気で怒らせてしまう。

「ま……眩しくて」
「はあ?」

 意味がわからないと顔をしかめるのも道理だ。だって、今日は曇っていて太陽など欠片も出ていないので。よくわかんねえやつ、と流してくれればいいのに、律儀に意味を問うてくる。真っ直ぐに視線を向けられては、誤魔化す気すら起きなかった。

「笑ったでしょ」
「誰が? ……オレが?」

 聞き返してから少し考える素振りを挟んで、彼は正解を口にする。こくん、と頷けば、それで? と言葉が返る。それでも何もなかった。それだけがすべて。

「あんな風に笑うの、珍しかったから」

 見慣れなくて、眩しかったんだ。

 観念して正直に告げれば、じわじわとその頬が赤くなっていくので首を傾げる。どうしたの。尋ねても答えはない。

 ──ただ、直視できないとでもいうように目を逸らされた。

7/31/2025, 2:23:22 PM