またね!
大好きな先輩で、初恋の人。後輩としてでもいいからずっと一緒にいたくて、想いを伝えるなんてことはとうの昔に諦めたはずなのに。お酒も入っていい感じに酔いが回ったころについに長年溜め込んでいたそれが口をついて出た。出会ってから十年。先輩は高校に入ってから知り合って五年ぐらいだと認識しているだろうけど、それよりも前からずっと恋焦がれていたのだ。先輩は私をそういう対象として見ていないことも知ってる。ただ、春から始まった新しい生活と、社会人として慣れないことばかりで疲弊していた心に、久々に聞いた先輩の声が優しくて、あたたかくて、ああ好きだと思ってしまえば止まらなくて。先輩はその綺麗な瞳を節目がちにしながら私の話を黙って聞き、答えが先輩に委ねられたらさっきまでの酔いが嘘のように冷静に丁寧に断られた。一つ一つにお礼を言われて、ありがたいと笑ってくれて、申し訳なさそうに謝られて、やがて気まずそうに俯いた。予想していた答えのはずなのに、もうなんか目の前が真っ暗で適当に理由をつけてその場を離れようとした。こんな終わり、嫌だなぁとは思うもののもう恥ずかしさで合わせる顔がない。一生の別れを込めたつもりの精一杯のばいばいを告げ、カバンとコートを準備して席を立とうとした時だった。
「またね。」
…え?言葉の意味が飲み込めなくてまるで時が止まったようにそれまでの忙しない手の動きを止めた。先輩は私の目をしっかり見ながら念を押すように言った。
「またね!」
「…"また"があるんですか?振った相手にまた顔を合わせることが?」
「うん。あってほしいと思ってる。そっちが嫌じゃなければだけど。」
「……自分勝手ですね。」
「自分勝手でごめん。でも分かってほしい。会えなくなるのは嫌だ。」
その目が、声が、先輩を形作るものが全て好きだ。それほど好きな人に「会えなくなるのは嫌だ」と言われ、振られたことも忘れて危うく照れてしまうところだった。本当にこの人はずるい。このまま終わらせてくれないところがずるくて、優しくて、好き。
3/31/2025, 2:45:32 PM